日本が世界有数の長寿国になったのは、欧米型の食事が浸透したおかげだ。健康そうなイメージの「日本型食生活」こそ、糖尿病の原因になる。

 肉、卵、乳製品などいわゆる欧米型の食事を避け、ご飯と根菜類などが中心の日本型食生活をすることが、患者が増え続ける糖尿病を防ぐとされてきた。だが、その逆が実は正しいというのが、今や世界の大勢である。

 糖尿病は、実は単純な病だ。人が食べたご飯、パン類、麺類、芋いも類など炭水化物の主な要素である糖質の消費を促進するインスリンの分泌が、止まったり滞(とどこお)ったりして、血液の中の糖分(血糖値)がひどく高まるという疾患である。

 インスリンは、膵臓(すいぞう)にある「ランゲルハンス島」という部分のベータ(β)細胞から分泌される。糖尿病には、このランゲルハンス島自体の疾患によるもの(1型)と、炭水化物の過剰摂取、すなわち生活習慣からのもの(2型)の2種類あるが、2型が九十数%を占める。

 見逃せないのは、生活習慣による2型の原因が先ごろまで、炭水化物ではなく脂肪の過剰摂取と見誤られていたことだ。間違いに気づいた欧米ではとうに治療の転換がなされているのに、日本ではほとんどの医療現場がまだ旧態依然としているのだ。

 糖尿病の原因を、脂っぽい欧米型食生活に求めた従来説の否定に日本で先鞭をつけた一人の大櫛(おおぐし)陽一・東海大学名誉教授は、大阪府立羽曳野(はびきの)病院(現・同府立呼吸器・アレルギー医療センター)などいくつもの医療機関を経て東海大学医学部教授に就いたが、大阪大学大学院工学研究科を出ていて医師ではない。医学・医療を広い視野から捉え直そうと阪大は医用工学の分野を開拓し、その世界から日本の医学界に踏み込んだ。

「大勢の患者が間違った治療で苦しんでいる。そんななかでむしろ患者が作り出され、有害無用の治療、投薬をされている」

 炭水化物の摂取量にきれいに比例して食後の血糖値が上昇し、それは炭水化物の摂取時にのみ生じ、脂肪などは無関係なことなどが次々と自身の実験や海外の資料から判明してきた。

 濡れ衣を着せられた脂肪も、もちろん消化、吸収されて血液に入るが、こちらは血管を害することなくエネルギー源として消費される。過剰であれば消化器での吸収が止まって、余りは体外に排泄(はいせつ)される。

一方で、和食でも糖尿病を患いにくいものがあるという。一例として、大櫛氏は動物性の食材が目立つ会席料理を挙げる。突き出し、焼き物、煮物、揚げ物、茶碗蒸しときて、炭水化物のご飯、そばは、そのいずれかが最後に少しだ。

家庭でも外食でもご飯が欠かせない人には、チャーハンがおすすめだ。油と卵で炒めるから、コメ粒が油の膜で覆われ、炭水化物の吸収が緩やかになる。食パンにはバターを塗り、パンの量は半分にしたらいいようだ。

AERA 2012年11月19日号