働きながら子育てする女性が増えた。しかし、子育てとキャリアの両立にジレンマを抱える女性も少なくないようだ。

 思い詰めた表情で、小6だった娘が発した言葉が胸に刺さった。

「お母さん、仕事辞めてくれない?」

 大手保険会社の女性課長(46)は昨年、娘の中学受験を経験した。塾では大量の宿題が出され、多くの子どもは専業主婦の母親が手取り足取りフォローをし、成績を伸ばしていた。なのに、自分は娘の宿題を見る時間はほとんどなかった。成績で決まる塾での席順は目に見えて後退した。娘も我慢を重ねていたのだろう。普段は無理を言わない娘が、冒頭の訴えをしたのだ。

 女性はちょうどその時、部門の抜本改革を担当するリーダーだった。「前代未聞の忙しい時期」だったこともあり、塾が終わる夜9時に娘を迎えに行くためダッシュで会社を出て、帰宅後家事を済ませると、深夜まで持ち帰り仕事をこなす日もあった。「娘の訴え」を聞いた受験半年前からは、朝5時に起き、娘とマンツーマンで2時間勉強をした。

 女性は34歳で出産。育休から復帰後は、保育園やファミリーサポートを利用しながらフルタイムで働いた。娘に不自由な思いをさせてまで働いているのだから成果を上げたいと思い、出産前より仕事へのこだわりが強まった。会社もそんな彼女を、キャリアアップしながら働く女性のモデルとして後押しした。出張を免除され、クリエーティブな仕事を与えられ、3年前に課長への昇進を打診された。

 迷った。責任が増し、忙しくなるのは目に見えていた。メンター役の先輩ワーキングマザーに相談すると、

「自分の裁量が増すぶん、管理職のほうが働きやすくなる」

 と応援してくれた。

 だが、管理職は想像以上の大変さだった。二十数人の部下が適材適所で働けているか目を配り、相談に答えられるよう幅広く業務知識を身につけなければならない。時間的にも精神的にも仕事のウエートが増した。夫は忙しい時の塾の迎えなどを担当してはくれたが、そこまでして母親が働く必要があるのかという態度が透けて見えたし、実母にははっきり批判された。

「父親が出世したら、なんで出世なんて、とは決して言われない。母親は出世したら周囲も自分もジレンマを抱える。ワーキングマザーの出世とはそういう複雑さを抱えています」

AERA 2012年11月19日号