草食男子から僧職男子へ。「ご縁がないのが何より」と思われてきたお坊さんが今、「美坊主ブーム」などで注目を集める。仏教の本場・高野山で、本誌記者が修行を体験してきた。

 高野山を案内してくれたのは、総本山金剛峯寺で広報を担当する薮邦彦(ほうげん)さん(43)と永崎亮学さん(28)だ。

 同寺は、お経が聞けるアプリを発売中だが、このお経を唱えているのが薮さん。うっとりする美声の持ち主だ。前出の『美坊主図鑑』にも登場する永崎さんは、高野山のゆるキャラ「こうやくん」と一緒に歌い踊る姿がユーチューブにアップされている。2人とも体を張って広報活動中だ。

 最初に向かったのが「奥の院」。「お大師さま」と呼ばれる空海は、今もここで生き続け、祈りをささげていると信仰されている。車の入場が禁じられた入り口から約2キロを歩いていく。

「奥の院」周辺までたどり着くと、撮影も禁止され、本格的な聖域となる。建物内に入る前に、身を清めるお香を塗る。由緒ある墓石群を通り抜けてきたためか、お参りも、いつものように「家族が元気でいられますように」と祈るより「平和な世の中が続きますように」と大きな願い事をしたい心境になる。

 宿泊先は宿坊だ。塔頭(たっちゅう)寺院がそれぞれ宿坊を経営しているのだが、かつて「お大師さま」が修行した場所に立つという「遍照尊院」に宿泊した。宿泊は個室でトイレや洗面所もあり、備品も高級旅館風。写経や精進料理、朝のお勤めも体験できる。

 夕食の精進料理は、鍋に、天ぷら、特産の白胡麻豆腐、煮物とボリュームたっぷり。イクラとイカのお刺し身かなと思ったら、豆乳と梅干しのこんにゃくだった。肉食ができないお坊さんを気遣った「もどき料理」だそうだ。広々としたお風呂に入り、11時前に就寝。

 翌朝は同院で午前6時からお勤めだ。ご住職ら3人の僧侶たちが本堂に安置された仏さまにお経をあげる。気温は5度以下。寒くて眠いが、自然に手を合わせたい心持ちになる。

AERA 2012年11月5日号