今、「美坊主」が人気を博している。今年2月に出版された、イケメンのお坊さんを紹介した本『美坊主図鑑』(廣済堂出版)でブームに火がつき、8月末に東京の丸の内で開催されたイベント「高野山カフェ」も盛況だった。カフェを開催した高野山の僧侶に話を聞いたところ、そうしたイベントを行う背景には、寺社が抱える問題があるという。

 高野山の僧侶・稲葉滋順さん(37)は、

「今までは待っているだけでよかったし、檀家(だんか)さんはありがたがってくれた。でも、今の50代あたりから先祖供養は縮小していますし、さらに次の世代はどうなるかわかりません。高野山を維持するためにも、どう収入を維持していくか。科学の発達で死後の世界に懐疑的な人が増える中、生きている間のケアや、かかわりをプロモーションする必要が出てきている」

 と言う。

 お坊さんにしては横文字がポンポン出てくるなと思ったら、稲葉さんは都内の大学の農学部で学んだ後、ニューヨークに留学し、メディアについて勉強したという異色の経歴の持ち主だった。高野山の塔頭(たっちゅう)寺院の跡取りだ。

 稲葉さんはフェイスブックでの情報発信も始めている。

「フェイスブックでみると関心が高いのは首都圏在住の30代半ばという層です。その人たちにもアプローチしていきたい。うつなどの心の病も本格的な病気になる前であれば、心持ちで回避できるのです」

 仏教関係者によると、今や、戒名をつけるパソコンソフトや、習字の苦手なお坊さんのための卒塔婆(そとば)を印刷するプリンターも売られているという。お寺はなく、葬儀業者と契約してお葬式にだけに派遣される「マンション坊主」もいるそうだ。

 だが、丸の内に現れた一風変わったお坊さんたちと、それにすがる寺社ガールたちを見ると、「仏教」に今、新たな潮流が起きているのかもしれない。

AERA 2012年11月5日号