「いま思うと、非常識な行動だったと思う。でも、当時は自分の異常な執着心を止められなかったし、そうする権利が自分にはあると思いこんでいた」

 こう語る都内に住む20代の女性は、10代の頃に“ストーカー”になった経験がある。

 1年以上付き合った10歳上の彼から、ほかに好きな人ができたと、別れ話をされたことがきっかけだった。優柔不断な彼は、別れ話の後も誘えば会ってくれた。それでも自分だけに向いてくれないことに苛立ち、彼女は1日40回以上携帯に電話し、3日に1回は彼の勤務先にも電話。職場に迷惑がかかり、彼は配属を変えられた。彼の実家にも通い詰め、彼の妹の実名と実家の電話番号をネットにアップ。彼から相談を受けた警察に呼び出され、口頭注意を受けた。

 性障害専門医療センターでストーカー加害者の治療をする、精神科医の福井裕輝さんは、このようなケースこそストーカーを助長すると話す。別れ話を切り出しながらも、キッパリした拒絶の意思が伝わっていない。一般的に、ストーカーの「もう一度会ってほしい」という要望に応じたことがきっかけで、行為がエスカレートすることは多いという。

 福井さんはストーカーに対しては、(1)交際するつもりはないこと(2)好きではないこと(3)あなたの行為は迷惑であり恐怖であること(4)すぐに行為をやめてほしいこと、を冷静に断固として伝えることが大事だという。相手を逆上させることがあるので「ウザイ、キモイ」など感情的な言い方は避ける。他人を介して伝えてもストーカーは被害者本人の意思ではないと解釈するので、自分の言葉で伝えるのがポイントだ。拒絶の意思を何度も反芻してもらえるように書面を添えるのもいいという。

AERA 2012年10月29日号