ノーベル医学生理学賞受賞が決まった山中伸弥教授のプレゼンが、巷で好評である。「ユーモアあふれる」「最新科学が、すっと頭に入る」……高校生から企業人までを魅了する「話術」の秘密とは。

 山中のプレゼンの秘密は何か。そのひとつに、自虐ネタがある。

 整形外科医の卵として研修中、臨床医としての要領の悪さに、指導医から「お前はホンマに邪魔や、ジャマナカや」と言われ続けたという話はすっかり有名になった。手術が下手だったのは緊張のせいで、実は不器用ではない、と本人も弁解しているが、こうした自虐ネタは、爆笑を誘うとともに、聴衆に親近感を与える。

 米国留学から帰国後、あまりの研究環境の悪さに、PAD(「アメリカ後うつ病」という山中の造語)に陥ったという話もこのパターンだ。ここから立ち直る話は、「人生山あり谷あり」を感じさせ、聴衆を魅了する。

 ヘタウマでもいいから印象的なイラストや写真を入れることは必須だ。ネズミの手描きイラストは山中の講演でよく見る。

 時にはパクリも辞さない。なぜ、iPS細胞の最初のiは小文字なのか? 当時大人気のアップル社のパソコンiMacや音楽プレーヤーiPodのパクリである。同社には無断で命名したが、その後、お墨付きをもらったそうだ。(文中敬称略)

AERA 2012年10月29日号