2000万以上の人口を抱えるインド西部の商都、ムンバイ都市圏から北へ約100キロのところにあるインド初の原発、タラプール原発。昨年、日本で起きた福島第一原発の事故をきっかけに、市民から不安の声があがっている。

 1号機と2号機は米ゼネラル・エレクトリック(GE)製。同じGE製の福島第一の原子炉「マークI」よりさらに一つ前のモデルで、稼働する沸騰水型軽水炉では世界最古だ。

 タラプールは原子炉4基(総出力140万キロワット)のほか、使用済み核燃料の再処理工場もある。事故が起きた時のリスクは大きい。

 米国のエネルギー問題の研究者、ベンジャミン・ソバクール氏によると、タラプール原発では89年に通常時の700倍の放射性ヨウ素が漏出。92年にも配管の破損で放射性物質の漏出があった。地元紙によると、10年に原子炉から使用済み燃料を取り出す時に機械が故障し、大事故寸前の事態に。インドの反原発陣営からは「タラプールは世界一危ない、時限爆弾のような施設」と批判されている。

 最近では、地元に道路や橋、学校などの社会基盤を整備する計画が示されている。日本では「電源三法」によって原発立地地域ではインフラ整備が促進されるが、インドにそんな仕組みはない。当局は、住民が反原発運動を起こすのを警戒し、懐柔策を進めているようだ。

 一般住民の間では原発への関心は薄く、「インフラ整備が進むならいいではないか」という雰囲気が強いという。だが、原発から5キロ離れたデルワディ村のジテンドラ・ラウル村長は切実な表情で語った。

「こんなに古い原発を動かし続けて本当に大丈夫なのでしょうか。日本はフクシマの事故の教訓をインドに伝え、安全性を高める支援をしてほしい」

AERA 2012年10月22日号