人間の幸福感を解明しようとする研究が進んでいる。「幸福は努力して手に入れるものだ」という米国人、「幸福はもたらされるもの」という考え方が根強い日本人。日本と米国では考え方に違いがあるようだ。

 幸福感研究がもっとも盛んなのは米国だ。米心理学会の会員数は15万人(日本心理学会は約7千人)。90年代末には個人や社会の強みや徳性を研究する「ポジティブ心理学」が発足。ハーバード大学では幸福をテーマにした講座が人気を集め、大手調査会社ギャラップ社は約1千人への電話調査をもとに、毎日、米国人の何パーセントが「昨日より今日は悩みもなく幸せ」だと思っているかを示すグラフをウェブサイトにアップしている。

 米国人が躍起になって幸福を研究するのは、「幸福は努力して手に入れるものだという、彼らの幸福観にあるのではないか」

 と米バージニア大学の大石繁宏教授(社会心理学)は話す。米国独立宣言には、国民の権利として「生命・自由・幸福の追求」が盛り込まれている。

 日本人には「幸福はもたらされるもの」という考え方が根強い。前出の大石教授が30カ国の辞書で「幸福」の定義を調べたところ、日本を含む24カ国で「運がよい」「恵まれている状態」と説明されていた。米国やインドなど6カ国の辞書にそうした説明はなかったという。

 幸福感の研究はここ数年、伝統的な心理学から経済学や政治学に広がり、OECDを筆頭に英国やフランス、タイなどで国の政策に「幸福度」を取り入れようとしている。日本でも昨年末、内閣府が幸福度を測る132の指標案をつくり、今年3月に全国約1万人の幸福度を調査した。大石教授は「日本特有の幸福感を探る取り組みは大事」としつつ、

「膨大な指標をどうまとめて包括的な幸福感を出すのか、不明な点も多い。国民の達成感を高めたいのか、日々の楽しみを増やしたいのか、政策目標の明確化が必要だろう」

AERA 2012年10月15日号