近年、若き社会学者が続々輩出されている。『商店街はなぜ滅びるのか』の新雅史(学習院大学非常勤講師)、『「フクシマ」論』の開沼博(福島大学特任研究員)……研究対象は異なるが、共通しているのは東大大学院で教鞭をとってきた上野千鶴子(現・東大名誉教授)門下生ということだ。

 今春『商店街~』で話題となった新はその中でも遅咲きだ。新は明治大学で7年も過ごした後に上野ゼミに入った。上野に興味をもったのは93年、明大入学直後だった。

 その後、ピースボートに関わるなど迷える時代を過ごしたのち、上野ゼミをモグリで見に行った。上野は「本気なら来なさい」とあっさり承認。新は大学院で本格的に弟子入りするまで、モグリのまま通った。

 08年に博士課程単位取得退学後は上野の手伝いに明け暮れた。学外の人間も参加する勉強会「ジェンダーコロキアム」や夏冬の定例合宿、上野の介護研究のサポート。「早く単著を」と上野からはせっつかれていた。

「僕はビビリなので、上野さんの元を離れるのが怖かった。母と子のような二者関係でした」

 だが昨年、上野は定年を前に早期退官を決意。よって立つベースがなくなり、ようやく腹をくくった。

『商店街~』は商店街の成り立ちと崩壊を描いているが、裏のテーマにあるのはコンビニの隆盛とその背景だ。ルーツには自身の家業の変遷がある。このテーマなら、上野の指導してきた当事者性も盛り込める。上野の感想は予想以上だった。

「ようやく読める内容になったね。骨太で面白かった」

 出版後、多方面から評価を得て少し恩返しできた気がしている。やっと「投げかけてみよう」という一歩も踏み出せた。

AERA 2012年10月15日号