何が人を幸せにするのか、幸せを決定する物質は何か。心理学や脳科学、経済学などで、人間の幸福感を解明しようとする研究が進んでいる。

 米ウィスコンシン大学のリチャード・デビッドソン教授(心理学・精神医学)らのグループは、脳の働きから幸福感に迫ろうとする。左脳前頭葉部と右脳前頭葉部の脳波の活動を調べ、左脳部分が右脳に比べて活発な人は幸福感も高いとする結果を報告した。右脳は主に五感を、左脳は主に論理や思考を司るといわれる。

 デビッドソン教授は、日常的に瞑想をするチベット仏教僧の脳波も調べている。すると左脳前頭葉部の活動が著しく活発だった。瞑想の訓練をした人としなかった人とでも違いは明らかだったという。

「脳の働きも技術の習得と同様に、意識して訓練すれば変わる。それによって幸福感も変化します」(デビッドソン教授)

「訓練」にはさまざまな方法があるが、「たとえば他人の幸せや健康を心に思い描く瞑想法は効果的」だという。

「私自身、30年以上瞑想を続けていますが、不安や怒りといった負の感情が減りました」

 幸福感を高めるための「介入」の研究も盛んだ。米国では感謝の気持ちを持つと幸福感が増すという研究報告もある。2003年の研究では被験者を3グループに分け、一つめのグループは過去1週間を振り返って感謝することを五つ、二つめは面倒だったことを五つ、三つめには起きた出来事を五つ書かせた。9週間続けたところ、「感謝」のグループの人たちが、もっとも人生の満足度が高かったという。

AERA 2012年10月15日号