世界中で大ヒットとなったフェイスブック。いまでは若者だけではなく、高齢者の利用も増えている。さらに企業も、社員の退職後を見越して活用し始めた。

 大手IT企業を定年退職した相馬一幸さん(64)は、元同僚から届いた招待をきっかけに、1年半前にフェイスブックに登録。仕事で築いた人脈を中心に160人以上の友達がいる。

「転勤先でのつながりや、退職して二度と会えないだろうと思っていた人たちと旧交を温めています。社内でぎくしゃくした人とも、顔を合わせないせいかうまくいくんですよ」

 退職後を見越して、ベテラン社員向けのフェイスブック講座を始める企業も出始めた。

 アサヒビールの流通部は、卸売り特約店の経営をサポートする部門。5月下旬、外部講師を招いて部独自のフェイスブック講座をスタートさせた。退職者の再雇用が多い部署で、平均年齢は50代半ば。講座を企画した松浦端・担当副部長はこう話す。

「得意先との関係を深めるビジネスツールとしてはもちろん、退職後の安否確認ツールとしても有効と考えています。社員たちの中には、『野に放たれたらただのおじいちゃんになってしまう』と退職後に不安を抱く者もいる。友達とつながれば、自信も持てると思います」

 最初は顔写真や名前を載せることを嫌がった受講生たちも、最近は互いに使い方を教え合うようになったという。

 高齢者向けのパソコン教室などを運営するNPO法人シニアSOHO普及サロン・三鷹で、アドバイザー育成教室を開く山根明さん(77)は、生徒たちのこんな声を代弁する。

「電気やガスのメーターが動いているか、ポストに新聞がたまっていないか。そんなふうに監視されるような見守りは窮屈です。シニア自身が好きなことを発信して、結果として安否がわかれば、一番いい」

AERA 2012年10月15日号