福島第一原発事故以来、東京電力の社員は大幅な給与カットにも見舞われ、描いていたキャリアは大きく崩れた。転職市場でも苦戦する社員が多い中、「いち抜けた」を成功させた社員もいる。

 大手総合商社に転職が決まったのは、20代後半のCさん。間もなく会社を去る。Cさんによれば、東電はこれまでは「転職者のいない会社」だった。しかし事故後は一転、周囲でも多くの社員が水面下で転職を画策しているという。

 入社時からCさんは、海外事業に携わりたいと熱望してきた。東電が2年前、会社の将来計画「2020ビジョン」を発表したときは心の中で快哉をさけんだ。東電が東南アジア諸国へ数億~数十億円規模の投資をすることが盛り込まれたプラン。

「必ず自分の仕事にする」

 と決意し、その通りに海外事業部門への異動を果たした。

 その途端に起きた原発事故。国外での事業展開は凍結され、すっかり意気消沈したという。怒りさえも感じながら転職活動を始め、2カ月で内定を得た。決め手は「語学力と若さ」だと自負する。

「東電は、超ドメスティックな会社。社員の最大の弱みは英語です。1年近く転職活動をしているのに、ちっとも進まない先輩がいます。彼は30代後半で、英語がまるでダメ。そんな社員、確かに使えませんよね」

 東電の仕事は、ほかの会社から見ればあまりに特殊だという。まともな競争相手もいない独占企業だ。

「入社直後は優秀だった社員も、ここで10年も20年も働けば、どの会社も採用しなくなる。不謹慎な言い方ですけど、自分が20代のうちに事故が起きてよかったとさえ思っているんです」

AERA 2012年10月15日号