9月11日から18日にかけて行われた、中国の激しい反日デモ。ネット上では、各地の反日デモに私服の警察官が混じっていたとの指摘が相次いだ。デモを取材したある中国人ジャーナリストはこう指摘する。

「日本政府の唐突な国有化決定に中国国民が怒ったのは事実だし、一方でデモに組織的動員があったのも事実。中国ではデモ隊の監視や誘導のために私服警察官がデモ参加者の中に紛れ込むことはよくある。しかし、もし警察官が破壊行為を先導するようなことがあるとすれば、その背後には何らかの政治的な意図がある可能性が高い」

 反日デモに意図があるとしたら、それは一体何か。

秋にも開かれる予定の中国共産党の第18回大会を控えて、最高指導部の人事をめぐる暗闘が続いている。米国など海外に本部を置き、中国当局内部に消息筋を持つとされる複数の中国語ニュースサイトでは、反日デモと指導部人事の関係について、さまざまな観測が飛び交う。

 反日デモに公安が積極的に関わったことから、公安や司法を司る政法委員会が仕掛けたとする見方がある。党大会では、最高指導部の政治局常務委員のポストを現在の9人から7人に減らす可能性が高いとされる。その際、保守派の江沢民・前国家主席に近い、常務委員で政法委員会書記の周永康氏が引退し、後任書記が常務委員に加われない可能性がある。

 周氏は高い人気を誇りながら失脚した前重慶市書記の薄熙来氏と関係が深かったことも問題になっており、この機に保守派の勢力が大きく削がれることになりかねない。そこで保守派が巻き返しを図るため、反日デモで国内を混乱させ、胡錦濤派に揺さぶりをかけたという。

 この他にも、2週間ぶりに姿を現した次期最高指導者の習近平国家副主席が、明確な立場と行動力を示すために対日闘争を取り仕切ったという見方や、逆に胡錦濤国家主席が、軍を取り込んで自分の政治的立場を盤石なものとするために糸を引いたという見方もある。

AERA 2012年10月1日号