「抗議活動は一段落し、大使館区域の交通秩序は正常に復帰した。みなさんはその他の理性的な方法で愛国の熱情を表し、大使館区域に抗議に行かないように希望する」

 9月19日朝、北京市民の携帯電話に一斉にこんなショートメールが届いた。送り主は市公安局だ。

 同じ頃、日本大使館前の道路はすでに封鎖を解除。前日までの激烈なデモがうそだったかのように、日常風景となった通勤の交通渋滞が始まろうとしていた。

 市公安局からのメールは北京に暮らす日本人にも届いた。「公安が禁じてすんなり収まるデモって一体何だったんだろう」

 今回の反日デモは、日本政府が尖閣諸島の国有化を閣議決定した9月11日から、柳条湖事件81周年となった18日にかけて、中国全土100を超える都市で起きた。デモの激しさは地域によって濃淡があった。なぜかいち早く16日にデモを禁じる通達を出して締め付けを強めた陝西省西安市では、15日のデモをめぐって騒動が起きていた。

 市中心部で起きたデモでは、「打倒小日本」と印刷されたTシャツ姿の男性が拡声機を持ち、デモ隊を先導。この男はデモの参加者を煽り、日本車を破壊していた。この男が市の公安局の人間だったことが、デモ直後にネットで暴露されたのだ。デモの写真がアップされ、市公安局のウェブサイトでみつけたと思われる顔写真と並べられ、「派出所長を務める警察官だ」という書き込みがされた。

 すぐに「デモはコントロールされていた」「謀略だ」などといった批判がネット上で巻き起こった。慌てた市公安局は17日、「警察官がデモを先導し、車を破壊した事実はない」との声明を発表。ところが、「それなら真犯人を捕まえろ」「写真鑑定しろ」などと、かえって火に油を注ぐことになった。

AERA 2012年10月1日号