ネットサービスはとても便利なだけに、少しの「理不尽」が際立つ。動きやすくするための「規定」が、むしろ動きを鈍くしているようだ。

 アエラでは、利用者が多いネットサービスを運営するIT企業に、利用者からの問い合わせの対応や従業員のコンプライアンス研修などについてアンケートを実施した。だが、回答を得られたのは20社中半数以下の9社。グーグルやツイッターなど海外に本社を置くサービスについては日本法人に申し込んだ。

 アンケートでは、商品の質問や書き込みの削除依頼などの問い合わせは、どのような方法で受け付けているのかも聞いた。サイトの入力フォーム以外に電話で受け付けていると回答したのは、カカクコムとグリー。ミクシィは200人態勢で24時間パトロールをし、サイバーエージェントは原則24時間以内にメールで回答をしている。だが、電話にせよメールにせよ、いったん質問や苦情を受け付けて、時間をかけてから回答を行うといったケースも、珍しくない。

 経済ジャーナリストの井上久男氏は、いまやどの企業でも重視されるコンプライアンス規定こそが「思考停止」を招く恐れを指摘する。

「IT企業など非正規社員の割合が多い会社では、人の入れ替わりが激しいのでルールの明文化が進んでいる。だが、コンプライアンス規定やガイドラインの明文化は、何をすればいいかはわかりやすくなるものの、それ以外のことは判断しない。本来は個別に対応しなければならないケースでも思考が停止してしまうのです」

 明確な担当業務以外のグレーゾーンには手を出さない、米国企業に見られる「ジョブ・
ディスクリプション(職務記述書)」と似た文化が、ユーザー不在を生んでいる可能性もある。

AERA 2012年9月24日号