歴代の芸術監督には、アントニオ・ガデスやアイーダ・ゴメスの名前が並ぶスペイン舞踊の最高峰。その名門の芸術監督に、35歳の青年が就いた。目指すのは、「舞踊の融合」だ。

「1978年の創立以来、スペイン国立バレエ団のミッションは、様々な踊りを融合させるこ
と。基本はスペイン舞踊ですがバレエ的な動きもあり、毎日のレッスンに取り入れています」

 と語るのは、昨年、歴代最年少の35歳でスペイン国立バレエ団芸術監督に就任したアントニオ・ナハーロ氏(36)。日本での「お披露目」となる2013年の来日公演に彼が選んだのは、カンパニーを代表する名作「ボレロ」、ギリシャ悲劇を題材にした「メデア」、ナハーロ氏自身が振り付けた「セビリア組曲」など、多彩な演目だ。

 15歳でプロダンサーとなり、複数のカンパニーで活動後、97年に入団したスペイン国立バレエ団ではプリンシパルとして活躍。02年に自身のカンパニーを立ち上げる一方、振付家としても脚光を浴びた。

 広く注目されたのは、02年ソルトレークシティー五輪で優勝したアイスダンスのマリナ・アニシナ&グウェンダル・ペーゼラ選手の「フラメンコ」、06年トリノ五輪で銀メダルに輝いたステファン・ランビエール選手の「ポエタ」などの振り付けだ。ナハーロ氏は言う。

「アニシナとペーゼラは、フラメンコのパッションを大切に表現してくれました。ランビエールも素晴らしいアーティスト。スポーツとして必要な技をこなすにあたって芸術的表現はむしろリスキーなのに、果敢に挑戦してくれたのです」

 言うまでもなく、フラメンコとスケートは別物。「振り付けは狂気の沙汰」とも言われるが、全く意に介さない。

「私はオープンな振付家。彼らとの作業は自分の創作の糧にもなります」

AERA 2012年9月24日号