物心ついた頃から人前に出ることが好きだった、俳優・アーティストのんさん。鏡の前でひとり、ポーズをとって遊んでいる子どもだった。やがて「表現したい」という気持ちが募り、芸能界へ。現在、俳優としてはもちろん、映画の脚本、監督、音楽活動と幅広く活躍。
2020年7月には、官民連携プロジェクトのジャパンSDGsアクション推進協議会による「SDGs People」第1号に選ばれ、SDGs活動の発信に取り組む。さらにそれをきっかけに、アップサイクルブランド「OUI OU(ウィ・ユー)」を立ち上げた。
アップサイクルとは、本来、捨てられてしまうはずのものを、アイデアやデザインによって新たな価値を付けてアップグレードさせることを指し、クリエイティブリユース(創造的再利用)ともいう。リメイクと似ているが、アップサイクルは価値をより高めることに重きを置く。
「『ウィ・ユー』のコンセプトは、好きなアーティストと一緒に暮らす『ライフ with 推し』。推しが身につけていた服を、ポーチやトートバッグなど小物にアップサイクルして、日常的に持って歩くことで本当に一緒にいるような気分になれるんじゃないかと考えました。アップサイクルは、作り替えることで新たな価値を生み出すということ。服がファンの方と一緒にいられる形に生まれ変わって、喜んでいただけることはとてもうれしいです」
第1弾として、のんさん自身が着たステージ衣装を多数アップサイクルしたほか、のんさんが敬愛し、楽曲をカバーしたことがある故・忌野清志郎さんから私服の提供を受けてアップサイクル。さらに忌野さんを中心とするバンド「RCサクセション」のメンバーで、のんさんのアルバムでもコラボレーションしたギタリストの仲井戸“CHABO”麗市さんのステージ衣装もアップサイクルし、抽選販売が10倍近い倍率になるなど大きな話題となった。
「私がまさに推しているCHABOさん、そして清志郎さんの関係者の方にウィ・ユーのコンセプトに賛同していただき、とてもうれしかったです。大事な服ですから、どういうものを作るか検討する段階から緊張しました。チーム全体に対し、アップサイクルしてファンの方に届けることの尊さを共有して、大切に制作しました」
今後は端切れなども含め、すべてを形にできるよう考えているところだという。
アーティストの衣装を作り替えることで新たな価値を生み出す。アップサイクルして届ける尊さを作り手と共有し、大切に制作している
ウィ・ユー立ち上げのきっかけとなったSDGs Peopleに選ばれたときは、改めてSDGsについて調べて、自分に何ができるかを考えた。持続可能な生産消費形態を確保する「つくる責任 つかう責任」が目にとまり、昔から裁縫を趣味としていたことから、「洋服のアップサイクルであればできるかも」と考えたという。
「SDGsって、たくさんのお金を動かしたり人を動かしたりしないとできない、大きなことなんじゃないかという漠然としたイメージが以前はありました。実際、そういう部分もあるかもしれませんが、SDGsの原則は『誰ひとり取り残さない』こと。一人ひとりができることが身の回りに必ずあります。まずは17の目標から共感するものを探してみると、『こんなことだったら自分にもできる』ということが見つかるかもしれない。簡単なことから足を踏み入れることで、少しずつ日常の中のいろんなSDGsに気づいていけるはず。難しく考えず、気軽に取り組めたらいいなと思います」
のんさんがSDGs People第1号となったのも、SDGsに対して身近に感じられる発信を期待されているからだ。
「意識を高めていく」のではなく、「意識が高くなくてもできる」ようになってほしいという思いから「ゴミをゴミ箱に捨てるのと同じように、日常に取り入れて当たり前になる時代になってほしい」と考えている。
のんさんは普段から、マイボトルやエコバッグを持ち歩いているという。環境問題に対しても、そういった日常に簡単に取り入れられることを続けることが大切だと語る。
セブン-イレブンでは「環境に配慮した循環型社会の実現」のため、一部店舗にペットボトル回収機を設置し、ペットボトルを資源として活用するお客様参加型の循環型リサイクル「ボトル to ボトル」を構築。
17年に初めて単独ライブを開催したときの思い出の衣装の半分はトートバッグ(写真)などにアップサイクル。ウィ・ユーで抽選販売された
また、一部商品の容器における紙製への切り替えや、石油由来のインクや着色を減らした「環境に配慮した容器」を使用するなどの取り組みを進めている。
「セブン-イレブンのように大きな企業が積極的に動いて、私たちが簡単に参加できる仕組みを作ってくれることは、すごくいいことですよね。私も日頃から環境に配慮された商品をできるだけ選ぶようにしています」。生活や地域に根差したセブン-イレブンが拠点となることで、環境問題がまさに「日常」となっていく。
「環境問題は自分に返ってくる問題です。みんながスーパーヒーローになった気分で『地球を守るんだ』と考えられたらいいと思います。環境に配慮することは、自分の家の中を整えることと同じ。地球を大きいものとして捉えるのではなく、“自分のウチ”と捉えるくらい、誰もが身近に自分事として考えられるようになってほしい」とのんさん。
セブン-イレブンは便利さだけでなく、幸せや笑顔を人々と一緒に創ることを目指し、消費者の生活にイノベーションを起こし続けてきた。1978年に手巻おにぎりの発売、87年にはバーコード読み取りによる24時間支払い可能な公共料金の「収納代行サービス」を日本で初めて開始。2001年にATM事業をメインサービスとした『アイワイバンク銀行(現セブン銀行)』がスタート、07年にはセブン&アイグループ共通のプライベートブランド『セブンプレミアム』の商品を発売した。また13年には挽きたて、淹れたてのコーヒー『セブンカフェ』を発売するなど、「業界初」の取り組みを含む数々のチャレンジを続けて50年。
のんさんは「私の仕事も笑顔になる人をひとりでも増やしたいという目的を持っているので、共感できる部分が多いです」と語る。
「音楽活動を始めたての頃は、怒りや衝動的な感情の発露がもとになって曲を作ることが多かったのですが、今はどう感じてもらいたいか、自分のメッセージだけではない視点を持って作るようになりました。今の世の中、怒りや悲しみを抱えている人は多いと思います。自分が笑顔を届けたい人がどんな生活をしているのかを踏まえて、作品に込める感情を導き出しています」
これまでのんさんはファンを笑顔にするため未知へのチャレンジを繰り返し、独自の道を切り開いてきた。しかし、それはとても勇気がいること。「怖い」という気持ちはないのだろうか。
「ないですね。批判めいたことを言う人はいますが、それは初めてのことをするときにはつきもの。私は自分の行動を信じています」
のんさんは昨年、30歳の節目を迎え、肩書きを「女優・創作あーちすと」から「俳優・アーティスト」に変更した。
「これまで『まだ20代だから』ということで、未熟に見られていたところはあったように思います。でも、活動を続けてきて自分が信じてきたことがようやく届きはじめて、もっと自信を持ってやりきっていいとわかってきた。それで肩書きを変えました」。自信の根幹を支えているのは、地道な努力だ。
「芸能の世界は華やかに見えると思いますが、実は地味な作業の積み重ね。頑張れるのは、応援してくださる方々がいるから。その方たちの声がパワーの源になっています。推す人と推される人、持ちつ持たれつ、相思相愛ですね!」
のんさんの笑顔は、希望という輝きに満ちていた。