
子どもの頃、パイロットになりたかったという仁さん。今はセブン-イレブンの2つのお店を“操縦”し、お客様と従業員に満足と幸せを届けている。妻のますみさんによると「とにかく、まじめな人」
「将来はコンビニの仕事をしたい。中でもセブン-イレブンのオーナーになりたいと考えていました」
そう話し始めたのはセブン-イレブン広島落合1丁目店のオーナー松下仁さんだ。仁さんは学生時代にコンビニエンスストアでアルバイトをしていた。そのお店のオーナーからコンビニエンスストアの仕事のやりがいと楽しさを教えてもらった。
お店の仕事は接客や清掃に加え、ニーズのある商品を発注したり、売り方を工夫したりと、自ら考え、行動することがお客様の満足に直結していく。やりがいがあるし、皆の力を集結させてお店を盛り上げることができる。こんな楽しい仕事はない、「これこそ自分がやるべき仕事だ」と確信した。
一方で社会の厳しさを知るために、会社員として働き、その間にますみさんと結婚もした。背負うものが増え責任も大きくなり、次のステージへ進むためにセブン-イレブンのオーナーになることに決めた。
そこでますみさんの父親に相談したところ、独立などはもってのほかだと言われた。義父は終身雇用の企業を勤め上げた方で、想像がつかなかったからだ。仁さんは義父と何度も話し、ある日、自分の好きなようにやりなさいと許しが与えられたのだ。
「ずっとセブン-イレブンのことを話していたので、誰かに詳しく聞いてきたようです。自分たちも利用するセブン-イレブンなら大丈夫と思ってくれたのかもしれませんね」と当時を思い出しながら仁さんは話した。
広島落合1丁目店では、移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」や、商品が最短30分で届く宅配サービス「7NOW」を展開している。買い物が不便な地域に住んでいる人や高齢者を含め、全ての人に安全・安心を提供し、住みやすい街づくりに貢献する取り組みだ。
今でこそ地域に密着し、住民から親しまれている仁さんだが、最初から全てがうまくいっていたわけではない。
2002年、1店舗目となる広島上深川店がオープンし、夢が叶ったうれしさと責任の重さをかみしめていた仁さん。初日は幸いにも盛況だったが、あるお客様からこう問いかけられた。
「あんた、どこの小学校を出たん?」
「広島市西区の小学校を出ました」そう答えると「なんじゃ、よそもんか」と、そのお客様が言った。
「よそ者?」

2013年に始まった「広島セブンの森」で植樹、間伐、清掃活動に参加した際の一コマ。「セブン-イレブンの社会活動の意義を強く感じました」と仁さん
同じ広島市の生まれなのにと戸惑いもしたが、どうしたら地元の人に信頼してもらい、商売ができるか考えた。
顔を覚えてもらうためにできるだけ店頭に立ち、地域の人とも頻繁に会話したり、自分の車で商品を配達することも始めたり。若い仁さんとますみさんを支えたいという気持ちもあってか、広島上深川店は徐々に地域に受け入れられるようになった。
しかし、少しずつ状況が変わっていく。競合店がどんどん増え、客足が減っていったのだ。
それでも何とかしたいと考え、さまざまな工夫や取り組みを行ったが、思うように売上が伸びず、そのお店を閉店。少し場所を移動して、広島落合2丁目店として再スタートすることになった。
再出発にあたり、心機一転しようと考えた仁さんは、かつてコンビニエンスストアの仕事のやりがいを教えてくれたオーナーに相談した。すると、「何ができるか考えて、とにかく一生懸命やんなさいや」と諭された。
「その言葉は私にとって、とても大きな力になりましたね」と仁さんは当時を振り返った。
そんな中で転機が訪れる。広島上深川店のときのお客様たちが広島落合2丁目店に車を使って来店していた。そのお客様たちは「セブン-イレブンに行きたいが、もう年だから運転も危ういし、免許を返納しようと思う、そうなるとなかなか出かけることもできなくなる」。口々にこう言うのだ。1人や2人ではない。会う人会う人が同じ様なことを口にする。
「最初のお店がオープンして20年経ち、近くの団地も建設されて60年以上になるので、この地域の人たちも高齢化してきますよね。ならば、こちらからお客様のところへ行こうと決めました」
仁さんはより多くのお客様に満足いただくべく、2010年に2店舗目となる広島落合1丁目店をオープンした。そして、本部と話し合い、2021年1月に移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」をスタートした。
「初めてお客様のところへ行ったとき、皆さん喜んでくれましたね。お店に行かなくても商品を選べるのが本当に楽しいと。他のお店の商品ではなく、皆さん口を揃えて“セブン-イレブンの”商品が食べたいとおっしゃるんです」と仁さんは力を込めて話す。
セブンあんしんお届け便でお店が軌道に乗り始めた仁さんは、さらなる手を打った。スマホからセブン-イレブンの商品の注文を受け、宅配する7NOWだ。
「セブンあんしんお届け便に加えて、お客様にもっと満足いただける新しいサービスをやりたいとずっと考えていました。7NOWは、まさに私が待ち望んでいたサービスでした」

「7NOWの注文が入ったら、すぐに商品をピックアップします。その際、お届けする品物はしっかり確認するようにしています」と頼もしい店長の植田里美さん
買い物に行きたいが、さまざまな理由でお店に行くことができない。そんな人が多くいることを地域の人から聞いていた。ならば、こちらが届ければいい。7NOWをすぐ始められたのは、仁さんがすでに地域の一員になっており、その声が届いていたからだ。
「当時はコロナ禍でもあったので、お客様は買い物に行きづらい状況でした。セブン-イレブンとして商品をお届けすることは、地域の方のためにもなると思いました」
7NOWを始めるに当たって、やるからには徹底してやろうと仁さんは従業員に話した。
広島落合1丁目店店長の植田里美さんは、「日用品は、ほこりがついていたらしっかり拭き取る。また、容器などに凹みがないか、賞味期限などをしっかり確認し、自分が注文した場合、こうしてくれるとうれしいなと感じられることを実践しています」と話す。
揚げ物は注文が入ってから調理し、揚げたての状態で届けている。
「全てはお客様に喜んでいただきたいという気持ちからなんです。お店に直接来ることができないお客様にも感謝の気持ちを届けたいと思っています。7NOWを通じて、より多くのお客様が笑顔になっていただければうれしいです」と植田さんは満面の笑みで続けた。
仁さんのお店はセブンあんしんお届け便、7NOW、そして頼りになる従業員と「三本の矢」を得て、順調に推移している。
「お店が順調なのは従業員それぞれの個性や力が結集されているからです。かつて私がコンビニの仕事の楽しさと意義を見出したように、うちの従業員さん、そしてこれからセブン-イレブンのオーナーになろうと考えている人にこの仕事を通じて得た幸せを伝えたいです」と仁さんは力強く話した。
仁さんの友人であり、常連の松尾友美さんは7NOWについて「早く届けてくれるので、うれしいです。本当に『今』欲しいものを『今』届けてくれるんですよ」と声を弾ませながら話す。
松尾さんと仁さんは、同じ高陽町商工会まちづくり委員会のメンバーであり、仁さんは委員長を務めている。

「お昼のお弁当や飲み物など、ほぼ毎日7NOWを利用しています。
とても便利で今ではなくてはならない存在です」と利用者の松尾友美さん

また、数年の中で幾度となく発生している広島市内の災害の際、「ここに来ればなんとかなる」と、仁さんのお店にも多くのお客様や被災者が来店した。
かつては「よそ者」であったが、仁さんは今や地域の中心人物となり、お店と共に、地域に欠かせない存在となっているのだ。
7NOWを始めた当初は外部パートナーによる委託配送であったが、少しでもお客様と触れ合いたいという気持ちから加盟店配送に切り替えた。そのことで、新たなつながりもでき、お店に足を運ぶお客様も増えた。
しかし、仁さんは同じ地域に住んでいる人だけに親しみを覚えているわけではない。
「東京に住む人から、7NOWでこの地域に住む母親の家にお弁当を届けるよう注文されることもあります。先日、『いつも母が7NOWでお世話になっています』と、お店で挨拶をされて、そのことを知りました。だから、お届け先のお客様はもちろん、東京に住むその人も私にとっては大切なお客様なのです」そう言って微笑んだ。
たとえ距離が離れていても、どんなところに住んでいても、7NOWがあればつながることができるのだ。
「今も初めてお客様に『ありがとう』と言われた日のことは忘れられません。とても幸せな気持ちになりました。私たちはセブン-イレブンで幸せな生活ができており、その想いをお客様、そして従業員さんと1人でも多くの人に感じてほしいですね」
そして仁さんは目の前のお客様に、そして目には見えないが遠くに暮らす“大切なお客様”に「ありがとうございます」とそっと心の中でつぶやいた。