妹の直恵さんの趣味は「全国のセブン-イレブン巡り」というほどセブン-イレブンが大好き。姉の美幸さんの趣味はあみぐるみづくりと野球観戦。北海道日本ハムファイターズのファンだ
北海道は国内のセブン-イレブンの中で、1人あたりの買上点数が多い地域の一つだ。一度の来店で数日分の食料品や日用品を購入するお客様が多く、生活に欠かせないインフラとなっている。
ここセブン-イレブン函館本通店も食料品から日用雑貨まで幅広く取り揃える。売場にはビールの6缶パックやワインなどが並ぶ。セブンプレミアムの焼酎4リットルボトルや、北海道産珍味も陳列され、地域のニーズをよく踏まえた売場づくりとなっている。
「オープンしたばかりの頃は、お客様が何を求めていらっしゃるのかわからず、お店に置いてほしい商品のアンケートを取ったこともありました。『この間、リクエストしたものを入れてくれたんだね』と喜んでいただいたときは私も嬉しい。『なんだ、ないのか』とがっかりさせたくないですね」と語るのは、オーナーの千葉直恵さん。
「今は従業員さんにそれぞれ担当の売場を割り当ててます。任された売場の商品が売れるとやっぱり嬉しいので、日々の仕事が、よりおもしろくなるようです」と、店長の石見美幸さん。
「新しく入った従業員さんと会話をするなかで『この人はペットを飼っているから、ペット用品のことに詳しいな』と思ったら、『自分のお店だと思って売場を作ってみて』と任せるんですよ」
「『品揃えがいいから、わざわざここまでくるんだよ』と、タクシーの運転手さんにもよく言われます」
リズム良く2人の会話が弾む。
直恵さんと美幸さんは年子の姉妹。幼少期、妹の直恵さんは「おねえ、おねえ」と、姉の美幸さんのあとを付いて回り、双子のように育った。
直恵さんが2人目、3人目の子どもを出産したときは、上の子の幼稚園の運動会に美幸さんに代わりに出てもらったこともあった。互いの子どもたちも年が近く、兄弟のように育った。
直恵さんは女手ひとつで子ども3人を育てることになり、一時は4つの仕事を掛け持ちしていたこともあったという。その中で出合った仕事がセブン-イレブンだった。従業員として2店舗、計10年ほど働いた。
幼少期の姉妹。現在の函館本通店のあたりで撮影した写真。このころは現在ほど住宅が多くなかったという。おそろいの服、長靴を履いて双子のようによく一緒に遊んでいた
「セブン-イレブンで働いて数年経ったときに、当時働いていたお店のオーナーに『自分でやってみたら』と声を掛けられたんです。『私が経営者に?』と思いました」と直恵さんは振り返る。
そのオーナーは直恵さんの何を見込んだのだろうか。直恵さん自身は「わからない」というが、お客様に親しまれる気さくな接客、いつも積極的にアイデアを出して売上に貢献する勤勉さ、なにより常に楽しそうに働いている姿が目に留まったのだろう。
「私はセブン-イレブンが大好き。だから、自分の好きなように店づくりがしてみたいという気持ちになりました」(直恵さん)
そして頼りにしたのは、やはり姉の美幸さんだった。当時、美幸さんはスーパーで勤続20年、リーダーを任されていた。
「すぐに相談しました。『私が得意なのは接客。姉には経験を生かして、私と一緒にお店を作ってほしい』と」(直恵さん)
「『私なんかでいいの?』と返事したことを覚えています」(美幸さん)
美幸さんは、この話が出る5年ほど前に大病を患っており、体力的な不安も感じたが、幼い頃からずっと傍にいた妹とこれからも支えあっていきたいと思った。「けんかはするけれど、仲は良い。そして体調のことはやっぱり妹が一番わかってくれる。何よりも、妹と一緒に働けるのが嬉しかった」(美幸さん)
共に50代からのチャレンジだった。
函館山からの夜景。函館のシンボリックな風景だ。直恵さんも美幸さんも生まれ育った函館が大好きだという
オーナーになる決意をしてから、トントン拍子に話が進んだ。開店にあたり、セブン-イレブン本部から提案された店舗の場所は、たまたま直恵さんが小学校から高校までを過ごした地元の住宅街。「この地域で開店したいと、すぐに承諾しました。よく知っている地域だから安心感もあるし、地元に貢献したいという気持ちもありました」(直恵さん)
実際にオープンしてみると中学のときの同級生が来店し、「がんばれよ」と声をかけていく。「ヤンチャ」していた高校時代の生活指導の先生が校長になって来店し「まさかオーナーになるとはな」と目を細めて買い物していく。
道路を挟んで向かいには小学校があり、近隣には多くの子どもが住む。そこで店内に駄菓子屋さんがそのまま移設したようなコーナーを作った。駄菓子屋は直恵さんの密かな夢でもあった。来店した子どもたちは喜び、親たちは懐かしむ。流行りのアニメにちなんで、おもちゃの刀を置くと飛ぶように売れた。お客様の顔を見ながら考えたことが、受け入れられる喜びを感じた。
近隣には高齢者世帯も多い。散歩のついでに店に寄って、従業員と会話することが健康維持に役立っているようだが、直恵さんは「体調が悪いときや天気が悪いときは無理をせず、1個でも2個でも配達しますから電話をください」と声掛けしているという。配達に行ったときは「お元気ですか」と様子を気遣う。
そんな地元を愛する直恵さんと美幸さんだが、地域の方に助けられることも多いという。たとえば、冬場は駐車場に積もった雪が踏み固められ、カチカチの氷状になってしまう。車内で休憩を取るドライバーの安全のため、直恵さんがつるはしで氷を割っていると、来店した男性が「疲れるだろう、代わってやるよ」と手伝ってくれた。
「この土地の皆さんに支えられているんだなと実感しました。毎日のように顔を出し、会話してくださるお客様もいます。出張の際はわざわざ『3日間来られないけど、心配しないで』と伝えにいらっしゃるんですよ」(直恵さん)
充実したお酒コーナーを作っているのが従業員の木曽江利香さん(左)。
函館本通店がオープン時から働いている。木曽さんの作る売場は、お客様から好評だ
姉妹の二人三脚。「互いに気を遣わないで言いたいことを言う」ことがうまくいく秘訣だと声を揃える。
「いつも妹に怒られています(笑)」と2人が笑い合う。
「姉は自分でやった方が早いと動いちゃう。だから『本人が動かないと仕事を覚えないし、私たちがいないときに困るんだよ』と注意するんです」(直恵さん)
「妹も昔は自分が動く方で、たんぱら(北海道の方言で短気の意味)なところがあったんですが、だいぶ我慢強くなりましたね」(美幸さん)
姉妹のリードでお店が一丸となり、キャンペーンなどでもその力がいかんなく発揮されている。積極的に声掛けを行い、時には希望者に、美幸さんの手編みのぬいぐるみのストラップをプレゼントしたことも功を奏した。想像以上に好評で、これまでに作った数は数百個にのぼる。これをきっかけに、美幸さんの作る手編みのぬいぐるみはお店にとって欠かせないグッズのひとつになった。
「3月はお雛様、5月は鯉のぼりと、四季折々のテーマで手編みのぬいぐるみを作って店内に飾っています。お客様が楽しみにしてくださるから、つい作ってしまう」(美幸さん)
従業員たちも、さまざまなアイデアを出し合って5周年を迎えた店を盛り上げた。左から木曽さん、林 優芽さん、干場知佳さん、牧やす子さん、上野藤子さん、田中美々さん
オープン5周年の際は、「お客様に楽しんでいただきたい」と、手づくりのくじ引きを実施。5年間の感謝を込めた心ばかりの景品を用意した。これは従業員のアイデアだ。
「私たちは『オーナーだから』『店長だから』という意識はありません。みんな仲間。だから皆の意見を聞きます」
そんな2人が作るお店だからこそ、いつも全員がお店を気にかけ、もり立てようという思いが強い。
美幸さんが作った手編みのぬいぐるみの効果と、人を巻き込むのが得意な直恵さんのリードで、たくさんのお客様が来店し、用意したくじはあっという間に終了。5周年を祝福しようと、卒業して新たな道に進んだ元アルバイト従業員も駆けつけた。
「『ただいま』って、来るんですよ」(直恵さん)
「だから、こっちも『おかえり』って迎えますね」(美幸さん)
愛する地元で、従業員とお客様に支えられ、皆が「ただいま」と帰ってこられるお店ができてきた。これは直恵さんの目指した形でもある。
「昔ながらの商店みたいな、そんな雰囲気だと、よく言われます」
姉妹の絆が作る「函館本通店」は、2018年6月にオープンしてからまだ5年。2人の物語はまだ始まったばかりだ。