「奇跡じゃなく必然です。ラグビーには奇跡なんてありえません」
2015年、ラグビーW杯で日本代表が強豪の南アフリカを破ったとき、そう断言したのが、チームの中心で勝利の立役者であった五郎丸歩さんである。
大番狂わせとも言われ、「ブライトンの奇跡」などと称されたのを一蹴したのだ。自分たちには、しっかりした準備と確かな自信があったからだと。
五郎丸さんは2021年に現役を引退。セカンドキャリアとして選んだのは、ジャパンラグビー リーグワンに所属する静岡ブルーレヴズのフロント、「クラブ・リレーションズ・オフィサー」だった。
「クラブに関わる仕事をしたいという気持ちもありましたし、自分が関わることで、良い影響を与えることができるのではと思いました。海外のクラブでプレーした経験もあるので、新しい提案ができると考えたのです」

ヤマハスタジアム近くのJR御厨駅前には、静岡ブルーレヴズ公式マスコット「レヴズ」のフラッグがはためいていた
以来、クラブのフロントとして、チケットマーケティングや事業の企画運営などの業務に関わっている。一方で、2022年から早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に社会人学生として通い、自分の考えをいかに周囲に伝えるかについても学び直したそうだ。
五郎丸さんが今、力を入れているのは、静岡ブルーレヴズをより多くの人に知ってもらうことだ。
「リーグワン ディビジョン1の12クラブのうち、ほとんどが大都市圏をホストエリアとしているなか、静岡ブルーレヴズは地方都市のクラブ。だから、ここでしかできないことをやっていきたいですね」
静岡は第一次産業が盛んな地。そのため静岡ブルーレヴズでは、地域の特性を生かしたイベントをよく行っている。
「子どもたちと田んぼでラグビーをしたり、とうもろこしを収穫したりというイベントも企画・開催しました。地域の人たちと選手たちが触れ合うことによって、『あの選手がいるなら、試合を観に行ってみよう』という方々を増やし、静岡ブルーレヴズを地域に浸透させたいと考えています」
地域共生社会の重要性が年々高まっている昨今。例えばセブン-イレブンでは、地域の原材料を活用した地区商品の開発や、行政と連携した販促などをすでに行っている。五郎丸さんたちの活動も、「地域と共に生きる社会の実現」を目指すセブン-イレブンの考えと同じだ。

袋井ハローこども園の園児たちと行った「生き物調査・どろんこラグビー体験」。五郎丸さんも選手たちとともに、泥だらけで楽しんだ
静岡ブルーレヴズがこうして地域に密着し、普及活動を行った結果は確実に出ている。クラブ発表によると、2022〜23シーズンのホストゲーム平均観客数、総観客数は共にアップしている。観客が増えたのは「静岡ブルーレヴズのゲームを楽しみたい、選手の活躍を観たい」という人が増え、クラブが地域に根づきつつある証しだ。
そんな期待に応えるためにも、選手にはより高いパフォーマンスが求められる。そのためにはトレーニングや休養に加え、食事が重要になる。食事という点では、ホストスタジアムであるヤマハスタジアム前のセブン-イレブンに、五郎丸さんもよく行くそうだ。試合後に空腹な時間ができるのを避けたい選手たちにとっても、タンパク質などを手軽に補給できるセブン-イレブンは、身近で心強い味方となっている。
五郎丸さんはクラブのフロントとして、人を動かす立場でもある。マネジメントの基本はラグビーの精神だ。
「ラグビーのキーワードは多様性です。体格や走るスピード、国籍の違いなど、チームにはいろいろな選手がいて、それぞれ役割があります。それを生かすことによってみんなが活躍できるのです」
ラグビーにおいても、適材適所の人材を配置することがチームにとって重要となる。
「人を大事にすることが組織を強くするポイントだと思います。そして組織が目標を達成するには、それぞれのモチベーションを尊重し、その人が何を目標とし、何を目指しているかを把握し、応えていくことが大事です」
スポーツチームだけでなく企業などにおいても、組織を強くし、価値を向上するための源は「人」である。さらに上を目指すためには「自ら考えて、自ら行動する人財」が不可欠だ。そういった考えのもと、セブン-イレブンでは「多様性」という点において、「様々な価値観の違いを理解し、多様な人々が活躍できる幸せな社会の実現」を目指しており、五郎丸さんが言うラグビーの信念と重なる。
またお互いをリスペクトすることも、ラグビーの精神としてよく語られる。チームメイトはもちろん、対戦相手やレフリーのことなどもリスペクトしているという。
「選手がプレースキックをするときに観客が静かに見守るのも、リスペクトの表れなんです」

さて、いよいよ9月8日からフランスでラグビーW杯が開催される。日本代表のジョセフヘッドコーチはベスト8以上、さらには「世界の頂き」を目指している。つまり世界一である。
これについてラグビー日本代表応援サポーターでもある五郎丸さんは、「数字上では、ベスト8は日本で行われた2019年W杯の成績と同じですが、今大会でベスト8に進むことは、かなり大きな意味を持ちます」と期待する。
「前回は自国開催で、ホームという有利な面がありました。今回はフランスというアウェーであり、コンディションをどう維持するかが課題になります。ヨーロッパというラグビーの本場で日本がベスト8に入ると、日本ラグビーのステイタスも上げることになるのです」
今大会でも日本代表が期待されるのは、2015年W杯の成果が大きいと五郎丸さんは分析する。
「あの大会で南アフリカを破るなど世界に衝撃を与えたことで、ラグビーにあまり関心がない人も日本代表に目が向きました。続く2019年W杯が自国開催ということで期待が高くなり、選手たちもより戦う意識が高くなったからです」
こうして日本代表は高い目標を掲げて初のベスト8進出を成し遂げたのだ。当時、世界ランク1位のアイルランドを破ったのも「奇跡でなく必然」だった。
「今、ジャパンラグビー リーグワンには世界のトップクラスの選手が次々とやって来ています。それは日本のラグビーが世界から認められた証しでもあります」
だからこそ「日本のラグビー界はもっと大きい存在になってほしいし、自分たちもそうなっていけるよう、力を尽くします」と五郎丸さんは宣言した。

4年前、日本はラグビーW杯を母国で開催し、次のステージへとつながる節目となった。セブン-イレブンも今年で創業50年。共通するのは多様性を尊重し、人財を重視する意識。また五郎丸さんが所属する静岡ブルーレヴズは、静岡という地域を大切にし、地域に常に寄り添っている。日本ラグビーも静岡ブルーレヴズも、そしてセブン-イレブンもそれぞれがワンチームとして、成長へのステップを確実に刻んでいる。
「日本は今、2035年に再びW杯を自国開催しようとする動きもありますが、大事なのはW杯によって日本のラグビーをどう盛り上げるかです」と五郎丸さんは力説する。そして「今やっているすべてのことがとても楽しい」と、にこやかに続ける。
「自分自身が楽しい、面白いと感じることが一番大事だと思います。地域でのイベントを企画するのも自分が本当に楽しいと思って自信を持ってやらないと、周りの人も面白くないでしょう」
最後に、こう力強く結んだ。
「これからの静岡ブルーレヴズ、日本のラグビーの可能性を信じ、力を合わせることで、もっと面白い世界をつくっていけます。未来がとても楽しみです」