生まれは青森、育ちは仙台。2014年入社。店舗勤務を経て、2016年OFCに。2019年から現職
ピンと背筋を伸ばしてスーツを着こなし、爽やかな笑顔を見せる一戸咲乃さん。商品本部 地区MD統括部東北地区に所属して5年目。東北エリアの「米飯担当」として、おにぎりやチルド弁当などの開発を担当するほか、秋田県と連携した商品も手がけている。
2023年5月、一戸さんは秋田県庁にいた。秋田県の県産品消費拡大につなげる取り組み「あきたびじょん」とコラボし、秋田の食材などを使った新商品を販売する「あきたびじょん 応援フェア」(5月23日〜6月5日)開催にあたり、知事への表敬訪問に同行したのだ。
セブン-イレブンは各自治体と地域活性化に向けて連携する包括連携協定の締結を推進している。その一環として、セブン-イレブンの商品を製造する工場では、その地域の嗜好、メニュー、食べられ方などの特徴をとらえ、地域に根差した商品開発を行っている。この製造工場は全国で170拠点を超える。
一戸さんら地区MDはその最前線に立つ。すなわち各地域で生活し、食文化を知り、地域の方とつながることで、地域に合わせたマーチャンダイジングを深耕しており、自治体からの期待も大きい。
通常、新商品の開発には半年以上かかる。さまざまなアイデアからいくつもの会議を経て、試作、試食を繰り返し、厳選された商品だけが店頭に並ぶ。
一戸さんが2022年に担当した商品の一つに「いぶりがっこポテトサラダクリームチーズ入」がある。「この商品が出るまでにはおそらく2年以上かかったと思う」と振り返る。
いぶりがっこは、秋田伝統の燻製した漬物だ。それを製造工場で生産するお弁当やお惣菜などのオリジナルフレッシュフードの材料として使用するには、セブン-イレブン独自の厳格な衛生管理・品質管理項目をクリアしていかなければならない。
一戸さんが開発に携わった「あきたびじょん 応援フェア」の商品。売上金の一部は、地域課題解決への支援のため秋田県に寄付される
そこで一戸さんは生産農家の高関上郷農場(秋田県大仙市)に足を運び、代表取締役の藤井清徳さんと直接交渉。生産現場を自分の目で見て確認した。
高関上郷農場の敷地には、1200本の大根を燻煙できる部屋が9部屋並ぶ。いぶりがっこの生産は時間との闘い。10月、雪が降り出す前に、白首大根の収穫を終わらせ、すぐに昼夜にわたって火を絶やさず2晩ほど燻す。その後、敷地内の工場で漬け込んでから真空パックし、12月末までに全ての作業を終える。完成した商品は巨大な冷蔵庫で保存し順次出荷。繁忙期はパート従業員が十数名働くが、それでも「猫の手も借りたいくらい忙しい」と藤井さんは言う。
いぶりがっこは大根の作付けや燻す薪の仕入れの問題もあり、安易に増産・減産をコントロールできるものではない。
お酒と好相性な「いぶりがっこポテトサラダクリームチーズ入」
「夏に収穫できる青首大根でいぶりがっこができないか何回も試したけれど、うちの女房が味見したら『これは売られねえ。売れば評判を下げる』って。ただ量を作ればいいわけじゃない。品質、味が大事」(藤井さん)
一戸さんが時間をかけながらもあきらめずにいぶりがっこの商品化に取り組んだのは、こうした「いいものを届けたい」という生産者の熱意に応えるという使命感があったから。そして、加盟店の想いに応えたい気持ちもあった。
「加盟店様の要望は、店舗の経営相談員であるOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)が聞き取り、私たち商品本部に伝えてくれます。その声に応えるため、私だけでなく、歴代の東北担当者はみんな『いぶりがっこを使った商品を出したい』とチャレンジし続けてきました。私は3年間OFCの経験があり、加盟店様の想いを形にしたいという気持ちが強いんです。それに、お店の要望から生まれた商品は、売る側としての思い入れもあり、商品を売るときの意気込みもますます強くなるんですよ」
セブン-イレブン社員や県内店舗のオーナーが秋田県知事を表敬訪問。秋田県産品の消費拡大に対し、知事からも感謝の言葉が贈られた
ゼロからスタートして、ようやくいぶりがっこを材料として使用できるところまでこぎつけた後も、奮闘は続いた。
「最初は『いぶりがっこポテトサラダ』という半熟卵がのった商品を発売しました。これもとても評判がよかったのですが、加盟店様からは『もっとおつまみに寄せた方がいい』とご意見をいただきました。そこでクリームチーズを加え、ブラックペッパーを効かせました。何度もご試食をしていただくなど、加盟店様と一緒に商品を作り上げたと感じています」
2022年5月、セブン-イレブン秋田県出店10周年記念商品の一つとして、満を持して「いぶりがっこポテトサラダクリームチーズ入」が発売された。刻んだいぶりがっこがポテトサラダの中にふんだんに使われ、クリームチーズのコクといぶりがっこの風味、ポリポリした食感が際立つ一品。おかずとしてはもちろん、お酒にも合う。SNSでも「おいしい」「東北に来た人にはぜひ食べてほしい」と大好評を得た。
「高関上郷農場のご協力により『いぶりがっこを使った商品がセブン-イレブンで買える』と多くの方に認知されたと思います。藤井社長からは、『いぶりがっこは秋田の伝統。守らなければいけない。セブン-イレブンを通じて新たなお客様に知っていただきたい』と激励されました。後継者不足で困っている生産者様もいると聞きます。秋田の伝統食品をPRするためにも、生産者様の想いを守るためにも、いぶりがっこを継続的に使っていきたい。そのためにまた新しい商品を開発しているところです」
商品本部 地区MD統括部の東北地区シニアマーチャンダイザー・赤澤太一さん(中央)を
中心に和気あいあいとしたチーム。それぞれ商品には思い入れがある
一戸さんは生まれは青森、育ちは仙台。東北をこよなく愛し、おいしいものへのアンテナを常に張り、出張ではその地域のスーパーや人気の飲食店に立ち寄って市場調査。どんな人が購入するか、人気のポイントはどこか、セブン-イレブンでもその食材を使った商品を販売できるか、考えを巡らせる。
加盟店オーナーのつながりで生産者や監修者を紹介してもらい、企画が進展していくケースもあり、「それは地区MDならではのおもしろさだと思います」と一戸さんは言う。
企画が通ってもテスト販売だけで終わってしまう商品もあれば、改良を加えながら人気商品に成長することもあり、当然ながら「思いつき」だけでは務まらない根気がいる仕事だ。
ヒット商品の秘訣は、「おいしさ」。これはシンプルにして難しい。
「おいしいものは売れるとわかっているけれども、たくさんのお客様に手に取っていただきやすい価格で実現しようとすると難しいんです」
妥協はしない。MD1年目はスイーツ担当として「東北限定! 自家製ずんだだんご」を開発した。製造工場で枝豆から仕入れてボイルし、クラッシュしてずんだ餡を一から製造。理想の粒感を実現するまで幾度もの試作と商品の検討会議を通し、完成まで約1年かかった。その甲斐あって今まで以上の大きな売上につながった。
地区MD統括部は1988年に発足した。それから35年目の今、全国のエリアごとに地区MDが活躍し、その地域ならではの商品を開発している
※商品名等は23年6月現在の情報
常時数十品もの企画を抱え、月に2、3回は出張。東北各地だけでなく、東京の本部に出向いて商品確認を行うこともある。商品の改良や検討など多忙を極めるが、その表情は元気いっぱい、生き生きとしている。
加盟店が、お客様に向けてその良さを心から力説できる商品にしたい。そのためには前例にないことであってもチャレンジしたい。それが地域の笑顔につながっていくと信じているからだ。一戸さんは次の目標をこう語る。
「会社として地産地消や持続可能な原材料の使用に取り組んでいます。今考えているのは、東北のおいしい海鮮を使った商品。上長もチャレンジを後押ししてくれると思います」
商品開発において心がけていることを尋ねると、「みんなの声を聞くこと」という答えが返ってきた。
「私1人では何もできなかったと思っています。また、商品開発中は、OFC時代に担当した加盟店のオーナー様や従業員様の顔が思い浮かびます。そして、その先のお客様、生産者様、関わってくださる全ての方に喜んでほしい。この先の50年も皆様と一緒に歩んでいけるように、製造メーカーの皆様と新たな挑戦を続け、商品を通じて生まれ育った東北の地に恩返しできる開発を目指したいです」