
カップデリの看板商品「コールスローサラダ」(右)と「7種具材のお豆腐とひじきの煮物」
おにぎりやサンドイッチなどと一緒に、またビールやお酒のお供に──さまざまな食のシーンで「もう一品ほしい」というニーズに応えるのが、セブン-イレブンの「カップデリ」シリーズだ。
惣菜売場に立ってみると、小鉢ほどのサイズの丸い容器に気がつくだろう。それが「カップデリ」。和洋中、多彩なメニューを手ごろな価格で展開中だ。店舗やエリアによって品揃えは異なるが、そのバラエティーの豊かさから、人気のほどがうかがえる。
カップデリが定番商品になるまでには、試行錯誤があったという。セブン-イレブンの惣菜やスイーツの開発・製造を担当しているプライムデリカ(神奈川県相模原市)、商品本部商品開発部長の牧美希さんはこう話す。

カップデリの担当になって早6年。「商品をブラッシュアップする努力を絶やさず、より多くのお客様を笑顔にしたい」と語る牧さん
「きっかけは2017年ごろ、当時売上を伸ばしきれなかった調理サラダというカテゴリーをなんとかしたいというみんなの思いでした」
セブン-イレブンの商品開発は独特だ。米飯や調理パンなどカテゴリーごとに分かれ、セブン-イレブンのマーチャンダイザーをリーダーに、専門的な知見を持つ企業とチームを組んで行う「チームマーチャンダイジング」という手法を取っている。メンバーは定期的に集まって議論や試作を繰り返し、新商品を生み出したり、既存の商品を改良したりする。牧さんが「みんな」と表現したのはそのためだ。
当時、調理サラダは四角く平たい容器で販売していた。だが、改めてデリカテッセンのトレンドを調査してみると、丸い容器が目についたという。
「容器に高さが出るので中身がよく見える。また、お客様にとって、丸い容器のほうが手で持ちやすいのではないかと思いました。チームの包材メーカーさんに新しい容器を探してきていただき、現行の丸い容器に替えてテスト販売をしてみたんです」(牧さん)
仮説は的中。丸い容器にした調理サラダは、売上を大きく伸ばした。そこで2018年から全メニューの容器を丸型にリニューアル、新生・カップデリが動き出した。だが、牧さんは悩んでいた。

コールスローサラダのフタをシールに替えたことで製造工程の機械化が進み、省人化につながった。また商品の長鮮度化も実現し、生産効率が高まっている
「商品の規格作りを担当したコールスローサラダの伸びが今ひとつだったのです」(牧さん)
従来は紫キャベツやニンジンなど、多品種の野菜を使っていたが、容器を替えたことで「色味が多い分、逆に主役のキャベツの存在感が薄れてしまっていた」と、気づいたそうだ。
意を決して、素材をキャベツ・キュウリ・ハム・コーンの4種に変更。結果、キャベツの瑞々しさが際立ち売上アップにつながった。ロングセラーになった今も、季節に応じて酸味の加減を調整したり、全国の産地からキャベツを取り寄せて品評したりと、品質の向上に余念がない。
さらに2019年、一部の商品から容器のフタをシールに替えたことも、カップデリの快進撃を後押しした。従来の容器に比べて1個あたり約25%のプラスチック使用量削減になったほか、製造工程を見直し、容器の中の酸化を防ぐ工夫をしたことで、販売期間をこれまでの1日半から2日半に延ばすことができた。
「今後もフードロス対策など、環境にやさしい商品の開発を加速させていきたいと思っています」と、牧さんは言う。

左はセブン–イレブン・ジャパン商品本部マーチャンダイザーの廣畑絵梨(ひろはた・えり)さん。カップデリの開発に一緒に取り組む
当初、数品目しかなかったカップデリは、現在「サラダ」「おつまみ」「副菜」の3つを軸に、約20品目のメニューを展開するシリーズに成長している。
2023年から担当に就いたセブン-イレブン・ジャパン商品本部デリカテッセン マーチャンダイザーの廣畑絵梨さんは、カップデリの未来図をこう描く。
「単身世帯や働く女性の増加など社会環境が変化し、お一人で食事をされるシーンが増えています。そのため、少容量の商品ができることはたくさんある。例えば、カップデリは『サイドメニュー』としての使われ方が多いですが、『メインディッシュ』になるメニューがあってもいいでしょう。お一人でもご家族でも、それぞれお好きなものを選ぶことができ、豊かな食シーンを作り出せるラインアップにしたいと考えています」
最近は、スイーツやおにぎりの棚でも、カップデリと同じ容器の商品を見かけることがある。いつでも手軽に楽しい食事を──小さな丸い容器の中には、商品開発者たちの熱い思いが詰まっている。

「お店で作るスムージー」担当の和田さんは、スイーツ開発の経験も長い。「秋冬もおいしく召し上がっていただけるメニューを考案中です」と意欲的だ
今、セブン-イレブンの店頭で注目を集めているのが「お店で作るスムージー」だ。スムージーとは、冷凍したフルーツや野菜などを混ぜてシャーベット状にしたドリンク。それを文字通り、購入者が店内の専用マシンで “自分で作れる”というからユニークだ。
透明なカップの中には冷凍したフルーツや野菜に加え、メニューに応じて豆乳、ヨーグルト、はちみつなどを入れたアイスキューブ。そのヘルシーなイメージと、スムージーを自分で作るというワクワク感が相まって人気が上昇した。2017年から、一部の店舗でテスト販売をしてきたが、満を持して、現在全国展開へと拡大を目指している。

冷凍加工は初の試みだったというプライムデリカ。一般的に糖分の高い原料を凍らせることは難しいが、急速冷凍の技術でクリアした。23年5月からは熊本県で生産ラインも稼働している

「お店で作るスムージー」は、店内の冷凍ケースに置かれている。おしゃれで“シズル感”のあるパッケージに変更した後は、女性の購入者が増えた
「開発が始まったのは8年ほど前です。今の商品とは違い、最初は野菜ジュースのようなチルド飲料としてスタートしました」
そう話すのは、プライムデリカ東日本商品部首都圏地区部長の和田沙耶香さん。こちらも、さまざまな知見を持つメンバーがチームを組み商品開発を行っている。
当初から、キーワードは「健康」だった。食事と一緒に野菜ジュースを購入するお客様が多く、また街中にフレッシュジュースのスタンドが増えていた。こうしたトレンドから「野菜を手軽に摂りたい」というニーズの高まりがわかる。そのニーズに応える新しい商品を創りたいというのが、メンバーの総意だった。
だが、すぐに課題に直面した。スムージーの魅力は出来立てのフレッシュ感にある。チルド飲料で実現するには限界があった。チームで議論を重ね、店頭にスムージー専用のミキシングマシンを設置しようと目標が定まった。もちろん、世の中にセブン-イレブン用のスムージーマシンなど存在しない。オリジナルマシンを開発するしかなかった。
「マシンの開発が大きな転機になりました。チームの中のマシンメーカーさんとセブン-イレブンの担当者さんが中心となって何度も試作とテストを繰り返し、並行して、私たち製造工場はメニューの開発を進めました」(和田さん)
原料の何と何を組み合わせれば、お客様のニーズにかなうスムージーができるのか。健康を重視してホウレンソウやケールを多くすると「味が草っぽい」、トレンドに乗ってたんぱく質やビタミン類を加えてみると「機能性ドリンクみたい」。原料の組み合わせは無限にあるだけに、メニューづくりは迷走してしまった。

商品のバーコードを読み取ると作り方が表示される全自動マシン。凍った素材を砕いて攪拌する「刃」の開発が難題だったという。メニューごとに所要時間は異なるが、調理中は画面に動画が流れて楽しい
「原点に立ち返ると、セブン-イレブンさんに並ぶ商品の譲れないこだわりは『おいしさ』なんです。その軸をぶれさせずに『おいしくて飲んだら、健康にも良かった』というような、気負わない商品にしようと考えを改めました。そこから現在のスムージーの形ができていきました」(和田さん)
人気のメニュー、『いちごバナナソイスムージー』を手に取ると、練られた商品開発のコンセプトが伝わってくる。透明なカップの中に入っているのは、カットされたいちごとバナナ、そして豆乳やはちみつを入れて、独自の製法で作ったアイスキューブ。なじみのある素材を使っているので、安心感が高い。また透明なカップを通して、カラフルな素材が見える様子がかわいく、フレッシュ感も強烈だ。
「いちごとブルーベリーをヨーグルトと合わせた『ダブルベリーヨーグルトスムージー』も人気が高いのですが、スイーツ代わりとしてお召し上がりになるお客様が多い。そこに着目し、従来のスムージーの枠にとらわれない、新しいメニューも考えたいと思っています」
と、和田さんは先を見ている。お客様の立場に立った、柔軟な視点が商品開発では重要なのだ。
さらに、こだわりはほかにもある。フードロスの低減に取り組んでいることだ。通常は廃棄されてしまうブロッコリーの茎の部分をピューレ状にして使ったり、サイズや形で規格外品になったフルーツも使用している。和田さんによると、今後は自社工場の敷地内で栽培したいちごの規格外品も、使っていくそうだ。
おいしくて、体にも地球にもやさしい。さまざまな価値を持ったスムージーが、近い将来、全国のセブン-イレブンに新しい風を吹かせてくれそうだ。