
新潟県十日町市出身。好きな歌手は武田鉄矢で、新潟の地酒とゴルフが大好き。宮入さんにとって、お客様の喜ぶ笑顔がエネルギーという。「雪が降って外は寒くても従業員さんが温かくお迎えします」と満面の笑顔で話す
「『やってみりゃいいことや』。そう親父に言われたときのことを思い出すと、今も涙が出そうになります」
3月にもかかわらず雪景色を背景にするセブン-イレブン十日町西店のオーナー・宮入正吉さんはそう話し出した。十日町市で三代続く酒店を継いだが、店の状況は芳しくなかった。お酒のディスカウントショップが出店してきたからだ。
「次々とお店ができて、安売り競争をしていました。その店のチラシを見て手が震えました。うちの仕入れ値より安いんです。もうだめだと打ちのめされました」
そんなとき、近くにセブン-イレブンが出店すると聞いた。
「話を聞きに行くと、私の考えにピッタリでした。常に新しい商品を揃える、お客様目線で接する、変化に対応する。これだと思いました」
宮入さんは成功を確信し、契約へと進み始めた。
「実は親父に黙って進めていたんです。ある日突然、セブン-イレブンに加盟することを話すと猛反対で、3日間やり合いました」
決着しないまま銀行で相談すると、父親にきちんと説明したほうがいいと言われた。銀行の担当者は宮入さんが一人で話を進めていることを知っていたのだ。
「私は、自分が一番正しいというおごりがあったのかもしれませんね」
翌日、改めて時間をかけて父親と向き合い、セブン-イレブンに加盟したいと伝えると、最終的には「やってみりゃいいことや」と言われた。その後、念願叶い1993年8月、十日町西店をオープンさせた。
しかし、またしても壁に当たってしまった。宮入さんはやる気満々だったが、お店は思いのほか苦戦。さらに悪いことに従業員が次々と店をやめていく。
「自分の思いを従業員さんに押しつけていた。ああしろ、こうしろと命令ばかり。それが従業員さんにとってプレッシャーになっていたんですね。ただお客様に喜んでほしかっただけなんですけど……」
宮入さんは覚悟を決めた。「逃げたらあかん」。大阪の電機メーカーで営業をしていたときのことを思い出した。あのときもつらかったけれど決して逃げなかった。
このままではだめになると、また当時の銀行の担当者に相談すると、コーチング研修を紹介された。そこで言われたことは、「否定ではなく、前向きな言葉を使うように」、そして「ありがとうと伝えてください」だった。
宮入さんは気持ち新たに、従業員一人ひとりと明るくにこやかに接した。そのおかげもあってか、経営が軌道に乗り始めた。それまでは大変な日々もあったが、やめようと思ったことは一度もない。
「それはね、セブン-イレブンの仕事が大好きだからなんです」

セブン–イレブン十日町西店 オーナーの宮入さん(中央)と丸山留美さん(左端)、店長の飯塚由嘉さん(左から2番め)、副店長の江村敏和さん(右から2番め)、佐藤夢可さん(右端)
宮入さんにとって、またしても大きな転機がめぐってきた。セブン-イレブンが2011年5月から移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」をスタートしたのだ。
宮入さんは高齢化が進むこの地域でいつかは移動販売をやりたいと考えていた。というのも、2011年当時の十日町市の高齢化率は全国平均をはるかに上回っていたからだ。さらに2023年3月現在、十日町市の高齢化率は40%を超えている※。また、十日町市は全国でも有数の豪雪地帯である。11月中旬から雪が降り始め、平均降雪量は4メートルを超える。冬になると高齢者でなくても外出をためらってしまう。そんな状況を見て、なんとかしなければならないと強く思い、「セブンあんしんお届け便」を始めたいと従業員に伝えた。すると一人の女性が手を挙げた。
「私、やりたいです」
2003年2月に宮入さんがオープンした3号店・中越松代店の従業員、草村和実さんであった。草村さんは地域のお客様とのふれ合いをいつも大切にしている。これを機に、宮入さんは行動を起こした。
「群馬県のセブン-イレブンで、『セブンあんしんお届け便』を始めたというので、草村さんと見に行きました」
宮入さんは2004年の新潟県中越地震などの際、買い物が困難な人たちの様子を目の当たりにし、十日町市での移動販売は必要だと本部に伝え続けた。その熱意が伝わり、2013年3月に市内にある中越松代店で「セブンあんしんお届け便」が新潟県で初めてスタートした。
初日には中越松代店で出走式、その後初の移動販売が行われた。この日を宮入さん以上に楽しみにしていたのは、「セブンあんしんお届け便」が走る十日町市松代と松之山地区の人たちだった。
そして2023年で10年を迎えた。松代・松之山地区には棚田が点在し、「にほんの里100選」にも選ばれた風光明媚な地である。その中を「セブンあんしんお届け便」の車が走る光景は、もはや風景の一部となっている。
※出典:十日町市「住民基本台帳人口」(令和5年3月31日現在)
中越松代店の「セブンあんしんお届け便」は、スタート以来草村さんが担当してきた。週に5日、土・日・祝日以外は、午前11時から午後4時頃までお客様のもとへ訪問している。
「訪問する曜日と時間、そして場所は決めています。その曜日、その時間に私がいるのが当たり前になっていますからね」と草村さんはにこやかに話す。
高齢者施設では二人のお客様が、待っていましたとばかりに出てきて草村さんに話しかけた。
「牛乳とカップ麺を買ったの」とお客様の一人が商品を見せてくれた。するともう一人のお客様が、「私もちょうだい」と伝えた。草村さんはカップ麺の作り方を教えつつ、体調はどうか、変わったことはないかをさりげなく聞いていた。
「私がおじいちゃん、おばあちゃんの健康状態を見守る役目もあるのです」
草村さんは声や動きで体調がよいか、悪いかが分かるという。
「好みも分かりますよ。だってしょっちゅう顔を合わせているんだからね」とお客様に笑いかけると、「いろんなものが買えるのはうれしいね。でも、草村さんとお話しするのがもっと楽しいの」とはちきれそうな笑顔で応じた。
「また来るね〜!」と言い残して草村さんが次の場所へ車を走らせていると、道で手を振り、声をかけてくる人に出会う。安全な場所で停車した後、草村さんは車を降りて話しかけた。
「道中で注文を受けることもあります。すれ違いざまに手を振ってくれる人もいます。みんな知り合いですからね」

巡回コースでいつも顔を合わせるお客様と接する草村さん。
次回の注文を取りつつ、何気ない会話から健康状態や家の困りごとなども分かるという

冬になると大雪に見舞われる。そんなときはどうするのか。
「余程のことがない限り車を出します。でも、おばあちゃんたちが家や施設から出てきてもらうのが危ないと思われるときは行くのを控えます」
中越松代店の「セブンあんしんお届け便」は地域のニーズに応じて、どの季節でもお客様のもとへ車を走らせる。
「夏はもっぱらアイス。暑い日に建設現場に行くと、とっても喜ばれますね」
楽しそうに草村さんは話す。行く先々で常連のお客様が新しいお客様を連れてくることもあるし、新たな販売場所を紹介されることもある。それだけ必要とされているのだ。
「セブンあんしんお届け便」についてオーナーの宮入さんは、草村さんに全幅の信頼を置いている。
「やり方については、あれこれ言いません。草村さんは自分なりに行く場所を探しており、お客様に喜ばれる商品をよく知っている。安心して任せています」
一方の草村さんはこう話す。
「売上も大事ですが、お客様からのありがとうの言葉が何よりもうれしい。その気持ちはオーナーも従業員もみんな一緒です」
商品を選んで買うことはもちろん、草村さんの笑顔を見ることもお客様の楽しみになっているのだろう。どんなに雪が降っていようと、どんなに遠くても、草村さんが幸せを届けてくれるのだ。

雪のなかを走る「セブンあんしんお届け便」
豪雪地帯にあるお店なので、雪への対応も念入りに行っている。
「雪が降ってもお客様や地域の除雪車が出入りしやすいようにしないとね」と宮入さんは深夜から除雪を行う。
地域の除雪車は深夜2時半頃から動き始める。深夜の除雪の合間に飲み物を買ったり、除雪が終わって朝ごはんを買ったりする人のために、宮入さんは温かい商品を充実させることを心がけている。
「豪雪地帯だからこそいつも営業しているコンビニには大きな役割があるのです」
現在は5店舗を経営する宮入さん。目標は日本一のお店になることと断言する。
さまざまな一番があるが、接客で一番になることが目標だと宮入さんをはじめ従業員は口を揃える。十日町西店の副店長・江村敏和さんは、宮入さんと一緒に働き始めてから仕事の取り組み方に変化が起きた。
「宮入オーナーは人とのつながりを大切にされている方。この店に来てから接客の楽しさを実感するようになり、仕事がつらいと感じたことはありません」
店長の飯塚由嘉さんも、十日町西店では従業員一人ひとりがやりがいを持ち、率先して動いていると話す。
宮入さんが目指すのは、従業員が一丸となって地域のお客様に信頼されるお店づくりだ。
「私の願いはセブン-イレブンを始めたときから変わらず、お客様に喜んでもらうことです。お客様に日本一幸せを感じてもらえるお店、それが私の目標です」