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都内 地方いじりの実態調査
方言はバカにされてるのか





「青森にサイゼリヤないとか本当?(笑)」――都会に出てきた地方出身者をからかうことは以前から見られた光景だ。首都圏出身者がいじるのはなぜか、地方出身者はどう思っているのか。慶應義塾大メディア・コミュニケーション研究所(メディアコム)とAERA dot.は共同で大学生にアンケートを実施。276人の回答から地方いじりの意外な実態が見えてきた。
「名前では気づかなかったけど、留学生の子かな?」
都内の大学に通う男子学生が英語のオンライン授業で和訳を読み上げると、講師にこう言われた。学生は青森の田舎町出身で、訛りは確かに強かった。冗談のつもりかもしれないが、自分の日本語をバカにされたようで腹が立ち、そして恥ずかしかった。学生はこう憤る。
「画面越しにクラスメイトに笑われていた。あれほど恥ずかしいオンライン画面は一生忘れられない」
これは慶大メディアコムの学生(20)が実際に体験した“いじり”だ。地元にイタリアンファミリーレストラン「サイゼリヤ」がないこともいじられるという。
コロナ禍で地方から東京に出てくる学生は減少傾向だが、少なくなった地方学生はこういった“いじり”に苦しんでいるのではないか。
そのような問題意識から実態を調査するべく、都内大学の大学生を対象にアンケートを実施。一都三県の高校出身者を「首都圏出身者」、それ以外の高校出身者を「地方出身者」として、それぞれアンケートをとった。首都圏出身者から164件、地方出身者から112件の回答が集まった。

まずは地方出身者の結果を見ていこう。
「地方出身をからかわれたことがあるか」を尋ねると、42%が「はい」と回答した。
「はい」と回答した人に「たいていの場合、どう感じるか」も尋ねた。「話題になって嬉しい」が53%で最多。「何も感じてない」が34%、「いい気持ちではない」は9%だった。
「方言など地方出身であることを隠すことがあるか」の問いでは、「隠さない」が63%で「場面によってある」が24%、「常にある」は5%だった。
地方いじりに「何も思わない」という甲府出身の慶大の男子学生はこう語る。
「田舎という自覚があり、むしろ話のネタにしています。『徒歩圏内にコンビニがない』、『スタバのある駅がない』とか言うと、ウケはいい」

首都圏出身者のアンケート結果も見てみよう。
「地方出身者をからかったことがあるか」の問いに「はい」は26%。「はい」と答えた人に「からかった理由」を尋ねると、「話が盛り上がるきっかけ」が86%、「コミュニケーションの一環」が74%、「自分と違うことに興味がある」が48%、「優越感のようなもの」が12%だった。
「当人がアイデンティティとして前面に出している」(早稲田大男子学生、東京)、「相手もいじりを期待している」(早大女子学生、埼玉)といった声があった。

首都圏と地方で認識に溝
専門家「いじめの構造も」
地方いじりが地方・首都圏出身者の双方に受け入れられているようにも見える。専門家はどう見るか。
社会言語学に詳しい慶大の佐野真一郎教授は「地方いじりの背景に真新しさがある」と見る。教育やメディアを通じ地方でも標準語に触れる機会は多い。他方で、方言の使用はその地域にとどまり、首都圏で暮らす人に接点は少ない。それが地方いじりにつながるということだ。
また、佐野教授は首都圏出身者でからかったことがある人が26%にとどまり、地方出身者でからかわれたことのある人が42%と多いことに着目し、こう指摘する。
「いじることに悪気はない首都圏出身者と、からかわれたと思う地方出身者に意識のギャップがあるのではないか。これはいじめの構造にも似ている」
その場は盛り上がっても、からかわれたほうは傷ついている。そんな事例も少なくなさそうだ。芸人の水川かたまりさん(空気階段)も「岡山弁の『〇〇じゃが』をいじられ、大学をやめた」とエピソードを語る(後述)。
アンケートでも地方学生からこんな声があった。
「西武新宿線が止まって、寮に帰れず、どうすればいいか友達に聞いたら、『振替輸送も知らないの? 中央線で帰ればいいじゃん(笑)』と小馬鹿にされ、その場では笑って流したが、ショックだった」(法政大男子学生、青森)
地方いじりは今後どうなるのか。佐野教授はこう語る。
「方言に関する地方差別の時代もあったが、関西芸人の人気などもあり、近年は『方言は使っていい』、さらには『かっこいい』、『かわいい』など肯定的な認識が増えた。地方移住の人気もあり、地方の地位も変わってくると思います。文化的にも多様性があることが望ましい」
空気階段かたまりも“被害”
岡山弁いじられ大学中退へ

みずかわ・かたまり
1990年、岡山県出身。慶大法学部中退。2012年、NSC東京校17期生時代に鈴木もぐらと「空気階段」結成。21年キングオブコント王者。レギュラー番組に冠ラジオ番組「空気階段の踊り場」(TBSラジオ)など。吉本興業所属。趣味はフットサル、totoサッカーくじ、読書など。
キングオブコント2021王者の空気階段・水川かたまりさん(32)も方言いじりの“被害者”の一人だ。09年に慶大法学部に入学するも、岡山弁の「◯◯じゃが」を「じゃがいも星人」といじられ、入学3か月で中退した。当時のエピソードを振り返ってもらった。
――大学で方言は隠していなかったんですか?
同じ高校から慶應に入った人もいたので、岡山弁で話してました。「こいつ、標準語にシフトした」って思われるのも恥ずかしくて。そしたら、いじりの対象になってました。
――どんないじられかただったのか。
入学後のクラス会で、ゴルフをやっていた色黒の内部進学生から「ちょっと来い」って呼ばれて、「お前はじゃがいも星人か」って言われたんです。
周りもクスクス笑っていました。僕は「じゃがいも星人じゃないです」と返すのが精一杯で。「この先、じゃがいも星人としての振る舞いを求められる」と想像したら、本当に嫌になりました。
初めての合コンでもいじられました。人数が足りないからって同級生に誘われて、渋谷で日本女子大と4対4の合コンをしました。男側は僕以外は標準語を話す人で、箸休め的な感じで方言をいじられました。
みんな楽しんでましたが、僕だけつらくて。途中で涙目で帰りました。
――岡山弁で失敗したことは?
フットサルサークルの新歓に参加したら、男女混合で、男が入れたら1点、女は3点とか緩い感じで。僕は真剣にやりたくて、イライラしてたんです。
それで目の前にボールが来たとき思い切りシュートしたら、女子の先輩の耳に当たって、うずくまって、泣いちゃったんです。周りも「大丈夫?」って。僕は「いや、耳に当たったくらい大丈夫じゃろ」って言ったんです。
岡山弁ってきつく聞こえるんですよ。僕が悪者みたいな雰囲気になって、最悪でした。
――その後、中退した?
じゃがいも星人とサークルの出来事が主な理由です。親には中退して、芸人になりたいことを伝えたんです。「卒業はしとけ」と言われましたが、「中退する覚悟がないと売れない」と伝えたら、納得してくれました。おじいちゃんは怒ってましたが。
――今も方言はしゃべらない?
やはり防衛本能が働きます。しゃべってと言われても恥ずかしいです。
上京した翌年、ファミレスでバイトを始めて、そこで岡山弁を捨てました。優しい人が多く、標準語も教えてくれて。
その後は、横浜出身の雰囲気を出すように心がけていました。芸人になるとき、知的でスタイリッシュなコントを目指したので。「横浜だったらあそこの店おいしいよ」とか言ってましたね(笑)
――地方いじりに改めて思うことは?
方言をからかう人は深く傷ついている人がいることは知ってほしいです。地方出身者の人も簡単にはへこたれないでほしいです。からかった人もすごい悪意があったわけではないと思う。
僕が経験したような悲しみは繰り返されてほしくないですね。
(文・撮影/慶應義塾大学チーム)