ニューノーマル時代の学び方 工学院大学のキャンパスライフイノベーション

近年、各大学はオンライン授業への移行を余儀なくされた。以来、学生がニューノーマルな環境に適応できるよう
大学には努力をする必要が求められている。そんな中、大胆な時間割改革を行ったのが工学院大学だ。
そこに至る背景や狙いなどについて、工学院大学の蒲池みゆき副学長に、大学通信 情報調査・編集部の井沢秀部長が話を聞いた。

創立135年を迎える工科系教育のパイオニア

井沢:工学院大学について概要をご紹介いただけますか。
蒲池:今年で創立135年を迎える、工科系に特化した大学です。現在は、4学部15学科を擁し、モノづくり人材「21世紀工手の育成」に力を入れています。建築、製造、情報サービスなど、幅広い業界へ人材が輩出しています。
井沢:日経BPコンサルティングの調査でキャンパスのデジタル化が進んでいる大学として首都圏1位だそうですね。
蒲池:はい、うれしい結果です。また、附属の中学校・高校でも早期からICT教育を打ち出しているので、そのイメージも強いのかもしれません。
井沢:「工学院大学後援会」という、父母の会の規模が大きいと聞きました。
蒲池:1950年に発足した後援会は、現在21支部に発展しています。毎年初夏に実施する父母懇談会では、保護者と大学教職員との個別面談を実施しています。大学の近況や学生の様子をお伝えするだけでなく、ご家庭からも情報共有いただくなど、保護者の方とのコミュニケーションを大切にしております。2020年以降はオンライン面談を実施しています。
井沢:それは良いですね。特に地方から子どもを送り出している保護者は、本当に安心できます。そんな工学院大学では、2022年の授業方針について、大きな時間割改革を打ち出しました。そこに至る背景などを教えてください。
蒲池:コロナ禍前もオンライン授業は試行しておりましたが、2020年の緊急事態宣言発出を契機に全学でのデジタルツールを活用したオンライン授業導入に着手しました。その中で、オンライン授業のメリットを大学が実感し、多くの学生が授業形態の多様化に利便性を感じたことがオンライン授業に関するアンケートの結果から明らかになりました。そこで本年度から、本格的に取り入れることにしました。
井沢:具体的な改善点を教えてください。
蒲池:大きく三つあります。①「デジタルツールを活用した授業のオンライン化」、②「実験・実習系の授業は対面でしっかり学修」、③「より効果的に受講できるように時間割を大幅に改編」です。
井沢:まず、①「デジタルツールを活用した授業のオンライン化」について、具体的な内容は?
蒲池: 必ず対面しなければならない科目以外は、オンライン授業にしました。教室に来なくても、好きな場所で受講できることが大きなメリットです。オンライン授業は同時双方向型(決められた曜日時限にデジタルツールを用いて実施する授業)、ハイフレックス型(対面とオンラインで同時に行う授業)、オンデマンド型(任意の時間に受講できる授業)の3つがあります。
 同時双方向型とハイフレックス型ではオンライン会議システムで、学生はどこにいても授業中に教員と活発なコミュニケーションがとれます。
井沢:通学時間を削減できて、好きな場所で知識を吸収できるのは良いですね。
蒲池:教材は学修管理システム(LMS)などを経由し手軽にアクセスできるので、何度も読み返せます。今まで授業についていけなかった学生にとっても、繰り返し学修ができ役立っています。学生からは、「予習・復習がやりやすい」という声も多いです。工学院大学では、オンラインで行う空間を新宿、八王子に続く「第3のキャンパス」と位置付けて、学生の利便性向上を進めています。
井沢:近年、非常事態で、「やむを得ずオンライン授業を取り入れた」というネガティブな対応をしている大学もあります。一方、工学院大学はデジタルツールを活用した教育を教育効果の観点から授業形式に応じて活用していくというポジティブな姿勢がうかがえます。

※日経BPコンサルティング 大学ブランド・イメージ調査2021-2022 首都圏編

2022年工学院大学の授業の改善点
キャンパスは、新宿と八王子の2カ所。

キャンパスは、新宿と八王子の2カ所。シャトルバスがあり、両キャンパス間を約45分で行き来ができる。

教員の直接の声かけも学びを深めるには必要

井沢:それでは、②「実験・実習系の授業は対面でしっかり学修」について、詳しく教えてください。
蒲池:工科系大学として、実験や実習は対面授業を重んじています。1年次から実験やPBL(問題解決型学修)科目を多く取り入れて、実践力を身につけます。工作機械を用いた特殊加工や計測、事故に注意すべき化学薬品の適切な扱い方といったことは、対面でないと身につけるのが難しい分野です。
井沢:学生同士や教員とのコミュニケーションも、学びには不可欠な要素だと?
蒲池:はい。専門科目であるほど、学生や教員から「対面授業が良い」という声が多く届きます。教員は、学生が実験などに向き合う姿を直接見ることで、どこで悩んでいるのかをくみ取り、タイミングよく声かけができます。その積み重ねが、学びをより深めるポイントなのです。
井沢:まさに、対面授業の醍醐味ですね。それでは最後、③「より効果的に受講できるように時間割を大幅に改編」について、解説をお願いします。

井沢 秀 井沢 秀

蒲池:オンライン授業と対面授業の整備だけでは不十分で、時間割の見直しは必須課題でした。まず、1時限と6時限はすべてオンデマンド型授業にして、通学時のラッシュを避けられるようにしました。その代わり、2~5時限は対面の実験・実習・演習授業を主に組み込んでいます。
 また、基礎科目、専門科目、実験科目の曜日を学部ごとに決めて、まとめて受講できる配慮もしています。
井沢:多くの大学にとって、オンライン授業と対面授業の併用は当たり前になっています。しかし工学院大学は、さらに時間割を改編してオンラインと対面の授業を上手に落とし込んでいるところが、他の大学と違う点。そこは高く評価されるのではないでしょうか。
蒲池:効率よく時間割が組めれば、学生の時間も増えるはず。オンデマンド型授業での繰り返し受講のほか、自主的な創造活動、他大学や産業界との連携などに時間を費やすことができます。
井沢:空き時間をどのように利用するかが、学生に問われますね。

工学院大学が取り組む「工学者のための数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」は、文部科学省が認定。

工学院大学が取り組む「工学者のための数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」は、文部科学省が認定。

時間を有効活用し自主的に動いて

蒲池:私たちが学生に求めるのは、「主体性」です。ここまで学生の時間づくりに注力しているのは、自分の時間を有効活用するべく、自主的に動いてほしいからです。工学院大学はソーラーカーチームが有名ですが、その他にも自主的な創造活動を数多く行っています。企業連携にも積極的で、例えば、キャンパス内で飼育したミツバチから、ハチミツや、ハンドクリーム、入浴料を開発しました。ハンドクリームと入浴料は、東京プリンスホテルのアメニティーにも採用されました。
井沢:自分たちの作ったものを社会へ還元したいという熱意が伝わってきます。
蒲池:工学院大学は、歴史から受け継がれた伝統の中で、教員の一人ひとりが「学生ファースト」の気持ちを大切にし、学ぶ意欲に応える姿勢を貫いています。確実に技術を身につけてから社会へ飛び立っていただく足がかりとして、今回の時間割改編は従来のキャンパスライフから進化するきっかけになるでしょう。2022年から工学院大学は、新たなステップを踏み出します。新しい工学院大学に期待してください。

詳しくはこちら 工学院大学

文/内藤 綾子 撮影/簗田 郁子 デザイン/弾デザイン事務所
制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot. ADセクション

提供:工学院大学

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