これまでに4500人以上の医師を輩出してきた兵庫医科大学。
2022年4月の大学統合を機に医系総合大学として教育を深化させていく。
創立50周年を迎えた今、この先の未来をどのように舵取りしていくのか。
野口学長に話を聞いた。
デザイン / 舗伊 朝太郎 制作 / 朝日新聞出版メディアプロデュース部 ブランドスタジオ
企画 / 株式会社シーエム、AERA dot. AD セクション
創立50周年を迎え、スローガンを「EMPOWER THE PEOPLE~心に響く医を、私たちがいるかぎり~」と刷新した兵庫医科大学。病気の治療にとどまらず、患者に生きる力を与える医療人の育成をめざす。記念事業のひとつが、兄弟校である兵庫医療大学(神戸市)との統合だ。2022年度から「医学部」「薬学部」「看護学部」「リハビリテーション学部」の4学部体制で新たなスタートを切る。統合したことで得られる効果について、野口光一学長は次のように抱負を語る。
「4学部がそろうことで、総合的な医療教育が可能になります。医療現場ではチーム医療が標準化されており、その経験を積むためにも臨床実習は必須の課題。まだ行っている大学は少なく、西日本では本学が先鞭をつけていきたい」
両大は兄弟校のため交流が厚く、これまでも4学部生によるグループ討議、模擬カンファレンスなどの「チーム医療演習」を行ってきた。今後はさらに発展させ、「多職種連携総合臨床実習(※仮称)」として、今まで学部ごとに実施してきた臨床実習を、学部混合のグループで行う。実習の場として、地域に根ざした医療を行っている、兵庫医科大学ささやま医療センターなどが想定されている。当初は選択制としてスタートさせ、ゆくゆくは全学必修カリキュラムに拡大する方針だ。
- 大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部助手などを経て1994年兵庫医科大学教授に着任。教務部長、入試センター長などに就任し2016年から現職
もともと兵庫医科大学は、教育力に定評がある。それを客観的に評価したのが、「THE世界大学ランキング日本版2021」だ。「教育リソース」部門で全国2位、私立大では1位を獲得(下コラム参照)。教育リソースは「学生1人当たりの教員比率」や「学生1人当たりの資金」など5項目で評価される。
兵庫医科大学の質の高い教育は、客観的な評価でもうかがい知ることができる。イギリスのTimes Higher Educationが行っている「THE 世界大学ランキング日本版2021」の教育リソース分野では、全国2位、私立大学で1位を獲得。同分野は「大学でどれだけ充実した教育が行われているか」を表しており、高い教育リソースを持っていることが評価された。
「確かに学生1人当たりの教員数は多い。教員をそろえることで学生に対するきめ細やかな教育ができ、研究の質も保てます」(野口学長)
学習を支援する医学教育センターには、医師国家試験をサポートする専任の教員が4人おり、合格率では近年好成績を維持し続けている。その秘訣は、質の良い試験問題を作ることだと野口学長は言う。
「学生は、深く考える問題に反応します。本学の教員は、国家試験に匹敵するような良問を作っている。これは、長年培ってきた経験と実力に基づいたものであり、貴重な財産だと思っています」
能動的な学びが多いのも、兵庫医科大の特徴だ。そのひとつが1年次から行われている「Team Based Learning(TBL)」。学生は与えられたテーマをもとに予習し、授業で個別試験を行った後にグループに分かれて討論する。グループが導き出した回答を教員と共有するパソコンに入力し、教員はそれを見て学生とやりとりをする。評価は回答の正否だけでなく、発言や貢献度など学生同士の相互評価も反映させている。
4年次には臨床推論を英語で学ぶ。患者の症状や症候から疾患を絞り込む臨床推論力と、高度な医系英語力を身につけることを目的としている。講師は米国から、医学教育の経験豊かな内科医の教授を招聘。学生への評価は、手を挙げた回数や発言した内容など、積極性を対象とする。
18年には、従来複数の建物に分かれていた教育・研究施設を集約し、大学の知の拠点となる「教育研究棟」をオープン。実習室や講義室のほか、少人数でグループ学習できるSGL(スモール・グループ・ラーニング)、自習室などを設けて、学生が主体的に学べる環境を整備した。
今回の統合では、研究面での効果も期待される。
「生命化学の研究は、最終的に薬と繋がる。医学部と薬学部が協力し、研究のレベルを最大限に上げていきたい」(野口学長)
現在日本の先端を行く研究として、ワクチンの効果を補強する「アジュバント」の開発研究が進められている。研究力が認められ、14年度には「研究医コース」として医学部定員が2名増員された。統合を機に研究にも力を注ぎ、大学ブランドとして育てていく。野口学長は、50周年の先の未来に向けて抱負を次のように語っている。
「人々を元気づけるような医療人を育てるのが我々の使命。その使命を追求し続けることを、兵庫医科大の関係者全員が誇りに思えるような大学にしていきたい」
建学の精神と兵庫医科大学の歩み
創立者の森村茂樹は、精神科医だった父親の後を継ぎ、1947年に武庫川脳病院の院長に就任。篤志家の森村は院内の業務だけでなく、地域医療や社会福祉活動に心血を注いだという。さらに医師の不足を痛感し、医療者の育成、地域社会への高度医療の必要性を感じ大学設立へとまい進し、1972年に兵庫医科大学を開学した。権威主義を嫌い、建学の精神を「社会の福祉への奉仕」「人間への深い愛」「人間への幅の広い科学的理解」とした。同年、同じ敷地内に地域の中核病院となる兵庫医科大学病院を開院。1997年には兵庫医科大学篠山病院(現・兵庫医科大学ささやま医療センター)を開設。2007年兵庫医療大学を開学。関西学院大学と学術交流に関する包括協定を締結する。創立50周年を迎えた2022年に兵庫医療大学と統合し「医学部」「薬学部」「看護学部」「リハビリテーション学部」を有する関西有数の医系総合大学に。創立者の理念を受けつぎながら「EMPOWER THE PEOPLE~心に響く医を、私たちがいるかぎり~」をスローガンに、未来に向けて歩みを進める。
50周年記念3つの事業
兵庫医科大学では開学50周年事業として、3本の柱を打ち立てている。その1つめの柱が教育改革の目玉となる兵庫医療大学との統合。2つめは2026年に西宮キャンパスに開院する、新病院棟の建設だ。「Human Centered Hospital」をスローガンに、患者と働く人間の両者に優しい病院をめざす。ICTを駆使して業務の効率化をはかり、空いた時間を医療の本質である、検査や診察に振り分ける。大学病院の課題である待ち時間の長さや複雑な動線も、ICTを活用して短縮をめざす。建物は840床を擁する15階建てで、病棟にはスタッフルームや学生スペースを設け、多職種連携の推進と共に教育機能を充実させる。そして、3つめの柱が2022年10月、大阪梅田ツインタワーズ・サウス内に開院する「兵庫医科大学 梅田健康医学クリニック」だ。大阪随一のビジネス街に設置することで、オフィスワーカーをターゲットに、診療機能と健診機能を両立させる。さらに、たとえば兵庫医科大学病院で手術を行った後に患者の情報を共有し、術後のフォローを行うなど、本院と連携するサテライトクリニックとしての役割も担う。
創立50周年を機に新たな兵庫医科大学が誕生
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- 西宮キャンパス
- [医学部]
武庫川河畔に隣接し、六甲の山並みが背景に広がる絶好のロケーション。兵庫医科大学病院も同じ敷地内にあり、実習の利便性がいい。
〒663-8501
兵庫県西宮市武庫川町1番1号
TEL.0798-45-6111(代) -
- 神戸キャンパス
- [薬学部・看護学部・リハビリテーション学部]
神戸ポートアイランド上に立地、海に面した広々としたキャンパス。神戸の中心地・三宮にほど近く交通の利便性も高い。
〒650-8530
兵庫県神戸市中央区港島1丁目3番地6
TEL.078-304-3000(代) -
- 篠山キャンパス
- [兵庫医科大学ささやま医療センター、ささやま老人保健施設など]
城下町・丹波篠山の面影が残る自然豊かなキャンパス。地域の拠点病院としての役割を担うとともに、臨床実習など教育の場としての機能を果たしている。
〒669-2321
兵庫県丹波篠山市黒岡5
TEL.079-552-1181(代)