大東文化大学 学長内藤二郎
1989年、同志社大学経済学部卒業。98年、外務省在広州日本国総領事館専門調査員。2002年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)大学院経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)。10年、大東文化大学経済学部教授を経て、20年4月より現職。
1923年の創立以来、「東西文化の融合をはかり、新たな文化の創造をめざす」教育を実践してきた大東文化大学。内藤二郎学長は今年4月の就任早々、コロナ禍に直面し、その対応に奔走してきた。激動の半年を振り返り、手ごたえと今後の展望を語る。
「5月からオンライン授業を開始するにあたり、学生全員がIT環境を整備できるようサポートしました。一律5万円の特別支援金を給付し、希望者にはPCやWi-Fiルーターを無償で貸与。結果として大きなトラブルもなく前期授業を乗り切ることができました」
通学に伴う感染リスクを減らすことが目的のオンライン授業だが、それ以外の効果もあった。
「学生の中には『大教室で大勢の学生と一緒に授業を受けるよりも集中しやすい』という声もありました。また、オンデマンド型配信は繰り返し受講できるので復習しやすいという利点もあります」
一方で問題点も浮き彫りになった。その一つが、学生に課される課題の多さだ。日々のレポート提出や小テストで成績が評価されるようになったため、課題に追われた学生が疲弊してしまったという。
「これは大きな反省点として、教員に課題の量やペースを調整するよう呼びかけました」
新入生Zoom交流会を見守る内藤学長。先輩学生の司会のもと、新入生が全員でゲームをして打ち解けた後、グループに分かれて会話を楽しんだ。
さらに、オンライン授業の円滑な進め方を共有するべく、9月にZoom上で教職員向けの研究会を実施した。約300人の参加者へ向けて、同大の教員5人が実際に行った効果的な授業を動画で紹介し、活発な討論を繰り広げた。
ほかにも注力してきたのが、この春入学した1年生のケアだ。先輩学生有志と教職員とが運営するTwitterアカウント『新入生お助けパラブン』は、学生生活全般について気軽に質問や情報共有ができる場として約900人にフォローされている。パラブン主催によるZoom交流会も開かれ、1年生同士のコミュニケーションの機会を創出してきた。
そしていよいよ9月下旬からスタートした後期授業。引き続きオンラインを主体に展開するが、一部の実習や演習では対面授業も再開された。「週に1日でも大学に来て、リフレッシュしてほしい」と内藤学長。ITを活用し、通信設備を整え、オンライン授業を軌道に乗せたが、「大学の真の役割はそこではない」と断言する。
「大学には、学生が仲間や教職員との交流から感性を磨くことができるキャンパスライフがあるべき。科学技術に飲み込まれることなく、人を中心とした場でありたいです」
2023年の創立100周年に向けて定められた「DAITO VISION 2023」でも、人々が相互理解を深める開かれた場を目指すことが宣言された。
「100周年はゴールでなく、新たなスタート。建学の精神である『東西文化の融合』をもとに、『アジアから世界へ―多文化共生を目指す新しい価値の不断の創造』という理念を掲げています」
日本古来の漢学をはじめ、多様な文化との出会いを通じて社会を豊かにすることに努めてきた同大。書道もその中心にあり、日本で最初に書道学科を開設し、文字や言葉を大切にしてきた。現代人はスマホやPCで文字を"打つ"ことが増えているが、「手書きの文字には個性があり、人間みや温かみがある」と内藤学長は語る。ここでも「人を中心とした」文化が重んじられている。
いまだ争いごとが絶えない世の中において、このような個々の違いを尊重した共生社会を築くことは急務だ。内藤学長は、感染症が収束した折に学生の留学を積極的に後押ししたいという。「文化や価値観の違いは、実際の交流の中でこそ分かるものだから」だ。
さらに内藤学長は続ける。
「『共生』とは人間同士のみならず、地球温暖化などの気候変動や、地震や台風といった自然災害、そして今回のコロナ禍と人間との間にも成り立つと考えます。困難な環境の中で我々がどのように折り合いをつけ、危機を乗り越えていくのか。学生たちには広い視野を持ち、常に問い続けてほしいと思います」