世界トップティーチャーが考えるいま最も必要な教育とは"問題発見力"を育むこと

文/神 素子 イラスト/辻村 章宏
デザイン/洞口 誠、大内 和樹 企画・制作/AERA dot.ADセクション

 黒板、チョーク、前を向いて並ぶ机。教師が説明し児童は黙ってノートに鉛筆を走らせる。昔から続く、日本の教育スタイルだ。
「ICT(情報通信技術)教育に関していえば、日本は世界各国の中で周回遅れ……どころか3周半くらい差がついているかもしれませんね」
 立命館小学校の英語教師であり、ICT教育部長でもある正頭英和さんはそう話す。ICT教育とはパソコンやタブレット端末を利用して行う授業を指す。正頭さんは2017年からICTと英語教育を融合させた授業を実施している。使うのはマインクラフト(マイクラ)というソフトだ。子どもたちは数人のグループに分かれ、清水寺や平等院鳳凰堂などをパソコン内に作り、仮想ロボットに観光案内をさせる。それを米国の小学校とビデオ通話でつなぎ、プレゼンテーションをし、動画で感想をもらう。やりとりはもちろんすべて英語だ。子どもたちはデザイン、英語、プログラムなどの担当に分かれ協働しながら作業を進めていく。
「英語は『実技教科』と考えています。水泳の授業は実際にプールに入ってやりますよね。マイクラを使った授業も同じ。実際に手を動かし、問題点を見つけ、意見を出しあい、英語でプレゼンする。教師が知識を子どもに伝える授業ももちろん大切ですが、それだけでは受け身のままです。英語を使ってあなたたちは何がしたいの? どう行動するの? そんな授業を展開しなくては。重要なことは『体験』することです」

教員の質が高いからこそ改革が起きにくい日本

 このような授業が高く評価され、正頭さんは教育界のノーベル賞と呼ばれる「グローバル・ティーチャー賞2019」トップ10に選出され、「世界の優秀な教員10人」となった。これをきっかけに世界中の教師とつながりを持つことができ、日本のICT教育の遅れを実感したという。
「アフリカのケニアでは、屋根も壁もないような学校で、スマホを駆使して学習しています。この差は数十年後に表れる。このままでは日本は大きく後れをとるかもしれません」
 だからといって、日本の教育力が他国に劣っているわけではない。
「教員の力量が不均一である国ほどICT教育に頼らざるを得ないのですが、日本の場合、現段階の授業の質は非常に高い。そのせいで変化に対応しにくいのかもしれません」
 変化とは、ICT教育だけではない。AI時代に対応した人を育成するには、子どもに多くの「失敗」を経験させる必要があるという。
「現在の学校教育では『失敗』をさせにくいのです。教師が問題を出し、児童に正解を求める教育ですから。でも、正解するだけならAIのほうが格段に優れています」

 現代の経済社会は、世の中にある困りごと(=問題)を解決する商品やコンテンツに対価が支払われる構造になっている。AIが次々と問題を解決するようになれば、解決すべき「問題」のほうが不足してくるだろう、と正頭さんは続ける。
「問題や困りごとは、当事者にならなくては気づきにくいもの。当事者になるには『参加』しなくてはいけない。参加するには『行動』しなくてはいけない。失敗を恐れず行動し、問題を発見できるかどうか。問題発見力こそが価値となる時代がやってくると思います」 

学校選びのヒントは実技教科

 ただ、日本の子どもたちは概して、自ら行動を起こすことが苦手だと正頭さんは感じている。
「人の目を気にして、失敗を恐れる気持ちが強いのです。でも『問題』は失敗から得られることも多いもの。しかも『なぜ間違えたか』のエピソードこそ、人によって違っておもしろい。AI時代だからこそ、その子だけのエピソードを語る力が必要で、それこそが人間的な魅力につながると思います。英語ができることも、ひとつの打開策になるかもしれません。広い世界へと目を向け、挑戦するマインドが生まれます」
 学校を選ぶときには、その学校がどんな体験を児童に与えているかを確認してみてほしい、と正頭さん。
「とくに実技教科に注目してください。実技教科は『体験』重視の教科ですし、多様な機会を提供しています。充実した実技教科は表現力や個性を伸ばします」
 正頭さんはここ数年で、私立小を選ぶ人に変化を感じると話す。


キーワードは「体験」。小学生時代の豊かな体験はこれからの時代に求められる、「問題発見力」を鍛えます。

「学費の関係で『小学校は公立、中高は私立』というご家庭はそれなりに多いと思います。でも、最近は小学校時代を私立、中高は公立という逆パターンも見られます。小学校時代は心も体も柔軟な時期。私立小学校が提供しているような『体験』に価値を感じ、その体験を通して自らの個性を知り、人生の方向性を発見していくことを重視する保護者が増えているからかもしれません」