ともに乗り越えよう――関西外国語大学(以下、関西外大)の教職員、卒業生らがこう題した動画メッセージを公式ホームページ上に配信している。コロナ禍で勉強や生活に不安を覚える在学生を力づけようという試みだ。
先陣を切って動画を発信した大庭幸男学長は、その中で理論物理学者アインシュタインの言葉を引用した。
「苦難の中にこそ、チャンスは存在する」
どういう思いが込められているのだろうか。
「教育機関にとっても新型コロナウイルス感染症の流行は大きな打撃を与えていますが、悲観することばかりではありません。この困難に対し、本学教職員は一丸となって対応し、団結力が深まっています。こうした機会だからこそ取り組めたこともあります」
その一つがオンライン授業の実践だ。関西外大では5月25日から全学生に向けて開始。インターネット環境を強化し、教員は授業の方法を考え、練習を重ねた。環境整備の経済的支援として、全学生に5万円を支給した。そのおかげで支障なく授業が行われているという。
「教育機関でのオンライン化は世界共通のこと。これにより今後、世界との関わり方が変わり、新たな国際交流のあり方が生まれると予想します。そのため本学では対面式の授業を基本にしつつも、オンラインでの教育手法を発展させていきたいと考えています」
関西外大は1945年の創立以来、主に英語とスペイン語を学ぶ大学として学生の国際交流を強く促し、特に留学制度の充実に力を入れてきた。現在、55の国・地域の393大学と協定を結び、毎年、約1900人が海外に旅立つ。ウイルスの世界的な感染拡大により、20年度の派遣留学の多くが延期となったが、大庭学長の言葉からはそれに負けない自信がうかがえる。
「長い時間をかけて築き上げた海外協定大学との関係性は強固なものです。国際交流の先駆者として、先を見据えながら取り組んでいきたい」
まだ検討段階だが、いくつかの考えがあるという。
まず協定大学へのオンラインによるアジア関連の授業の開講や、対面で行っていた「スピーキングパートナープログラム」をオンラインで実施すること。加えて海外の学生を巻き込んだプロジェクトの実施などにも取り組んでいる。
豊かな教養と国際感覚、
問題解決能力を
また、特に今後、重要性を増す二つのプログラムがあるという。
一つがノーステキサス大学やアデレード大学など五つの海外協定大学と協働開発した「Super IES プログラム」。英語の4技能(聞く、話す、読む、書く)の向上だけでなく、論文の書き方やプレゼンテーションの方法など、留学先で専門分野の授業を受講するために必要なスキルを身につけるカリキュラムだ。内容中心の教授法が採用され、世界共通の課題、歴史、経済などを英語で学ぶ。Super IESを修了した学生は、その後、海外の大学で経済や文学など、専門分野の単位を修める。
もう一つが、留学生向けの授業を関西外大の学生も受講できる「関西外大流グローバル人材育成プログラム」。開講科目は60以上あり、日本文化から国際関係、政治学、ビジネスまで多岐にわたる。授業の方法は北米の大学のスタイルを踏襲し、グループワークやディスカッションがメインとなって進む。
「高度なコミュニケーション力は豊かな教養があってこそ。これらのプログラムを通して、教養に加え、積極的に自分の意見を述べる力、問題を見いだし解決していく力などを養ってほしい」
地球規模で解決すべき課題が浮き彫りとなったコロナ禍。世界が連帯してこの難題を乗り越えていく必要性に迫られている。
「長年、国際教育に力を入れてきました。本学から輩出すべき人物像を『逞しく品格ある人物』と表現しています。それは高度な語学力、異なる国や文化・価値観への洞察力と受容力、客観的・論理的思考力を有した人のことです。この度の感染症流行でもわかるように、今後、社会はより予測困難となっていくでしょう。そんななか、自ら課題を見つけ、解決の方策を考えていける次世代のグローバルリーダーを育成する責務があると感じています」
専門分野を学ぶ留学に向けて
「Super IESプログラム」
海外協定を結ぶ5大学との協働開発により、海外へ語学留学するのと同じレベルの授業を受けられる。歴史学や社会学などさまざまなテーマを取り上げ、そのなかで英語を理解する「Content-based Approach(内容中心教授法)」を採用。授業はすべて協定大学の外国人教員が担当する。修了後は、海外の大学で専門分野を英語で学ぶ「専門留学」や「リベラルアーツ留学」へ。関西外大ではそのほか2年間留学する「ダブル・ディグリー留学」や「2カ国留学」など、充実の奨学金制度とともに、多様な留学制度を整えている。