「我が大学の門戸は広く開らけ、
 我が大学の空気は自由なり」

型にはまらないのが
「同志社らしさ」

2025年に150周年を迎える同志社大学。創立者である新島襄の遺志を受け継ぎつつ、これから目指す大学の姿とは。運営の指針となる「VISION2025」と、そこに貫かれた「同志社らしさ」について4月に就任したばかりの植木朝子新学長が語る。

文/原子 禅 撮影/楠本 涼 ヘアメイク/園部真紀 
企画・制作/AERA dot.AD セクション


「女性学長」であることが
話題にならない社会へ

片桐 学長ご就任おめでとうございます。
植木 ありがとうございます。
片桐 まずは、現在の率直なお気持ちをお聞かせください。
植木 歴史ある大学の重責を担うわけですから、正直、緊張しています。不安もありますが、3年間の副学長経験を生かしつつ、対話を重視しながらチームとして運営していきたいと考えています。
片桐 AERAは総合週刊誌としては珍しく、読者の約半数が女性です。植木さんは同志社大学初の女性学長ということで注目を集めましたが、学長選任後の記者会見では、「本来なら(女性ということが)話題にならない時期がくるのが望ましい」とおっしゃっていました。
植木 注目していただけることはありがたいのですが、役割を果たすうえで重要なのは個人の資質で、性別はその人が持っている性質のひとつだと思います。ですから、「女性」という部分が強調されすぎることには戸惑いがあります。今後、私個人が批判を受けることはかまわないのですが、「女性だから」と言われてしまうことがあるかもしれない。少し怖いですね。
片桐 増えてきたとはいえ、日本では管理職クラスの女性はまだ少数派です。
植木 将来、「女性だから」というバイアスが無くなるための捨て石になれたらと思います。

「VISION2025」を貫く
テーマは「多様性」

笠井 玲子

植木 朝子 Ueki Tomoko

同志社大学学長
1990年、お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。98年、博士(人文科学)(お茶の水女子大学)。2007年から同志社大学文学部国文学科教授。文学部長(15年)、副学長(17年)を経て、20年4月から現職。

片桐 同志社大学は2025年に150周年を迎えるそうですね。貴学ではこれからの指針として「VISION2025」を掲げていますが、どのようなものでしょうか。
植木 教育姿勢や共同研究、国際化など、本学が進むべき六つのビジョンを提示していますが、これらを貫いているテーマは「多様性」だと考えています。
片桐 具体的にどのようなことを考えていらっしゃいますか。
植木 この多様性とは、人種や国籍のほか、セクシュアルマイノリティーも含めた性別、身体的ハンディキャップや精神的なものなども含まれます。創立者の新島襄が「諸君ヨ、人一人ハ大切ナリ」という言葉を残したように、本学には異なる他者との共存を受け入れる底流があります。誰も否定せず、誰も取りこぼさないように学生たちを受容していきたいです。同時に、学生たちには多様性への理解を深める教育をしなければなりません。専門部署を設けて、制度や環境を整備し、調査・分析や社会への発信も行う予定です。
片桐 多様性に関して印象に残っているのは、以前AERAに掲載したスウェーデンの就学前施設でのジェンダー教育についての記事です。男女平等教育を実現するために、保育士の様子を撮影し検証したところ、危険を伴う遊びへの対応や叱り方など、無意識のうちに「男女差」をつけていることが分かった。そこから時間をかけて改善したそうです。
植木 無意識にというのが危ないですね。気がつけば、バイアスを正すことができますから。
片桐 私自身、娘を祖父母に預けるときは、「女の子だから」という言い方はしないで、と頼んでいます。

「自分はどうあるべきか」
この問いに向き合うために

片桐 圭子

片桐 圭子 Keiko Katagiri

AERA 編集長

片桐 植木さんの専門は中世国文学と伺っています。私は大学で歴史学を学んだのですが、近年、日本の大学では理系重視の傾向が強く、文系出身者としては納得がいきません。
植木 たとえ理系分野を専攻していても、「自分はどうあるべきか」という問いはなくなりません。その問いに向き合うためには歴史や文学、哲学など過去からの積み重ねを学ぶことが大切です。
片桐 私の恩師も「未来を見通すのが歴史学の仕事だ」と言っていました。
植木 文系、理系にとらわれすぎず、どちらも学ぶ姿勢が大事です。本学では「VISION2025」の一環として、「ALL DOSHISHA教育推進プログラム」を実施しています。そのなかの「サイエンスコミュニケーター養成プログラム」は、文系学部の学生でも受講できる文理横断型のものになっています。
片桐 産学連携についてはどうお考えですか。
植木 従来は教授個人の研究それぞれで企業などと連携するケースが多かったのですが、それを大学全体に広げていこうと取り組んでいます。さらに研究だけではなく、教育面でも双方向で協力したいと考えています。昨年、大和総研とデータサイエンス分野での協定を結びましたが、これはビジネスとデータサイエンスの両方の知識を持つ人材を育成することを目的としています。

同志社が大切にしている
「倜儻不羈」の精神とは

片桐 最後に、どんな学生に同志社大学へ来てもらいたいか、そして、同志社で何を学び、どんな人間として社会へ旅立ってほしいかを教えてください。
植木 同志社が大切にしている「倜儻不羈てきとうふき」という言葉があります。これは、「才気がすぐれ、独立心が旺盛で、常軌では律しがたい」という意味なのですが、型にはまるのではなく、自分らしく生き抜くための力を同志社で身に付けてもらいたいです。
片桐 どの大学にも独自のカラーのようなものがあると思うのですが、私の知っている同志社出身の方は、皆さんいい意味で個性的で、「同志社カラー」でくくれない印象です。逆に、そのことが多様性を大切にする「同志社らしさ」なのかもしれませんね。
植木 そう言っていただけるとたいへん嬉しいです。スポーツや芸術分野、伝統芸能などで活躍する学生も多く、個性の幅が広いと感じています。これも本学の良さではないでしょうか。
片桐 キャンパスにお伺いして、「大学っていいところだな」と改めて実感しました。本日はありがとうございました。

片桐圭子の編集後記

 「学長」というと、近寄りにくくて堅い人というイメージですが、植木さんの醸し出す雰囲気はやわらかかった。ご自分の言葉で率直にお話しいただき、人として信頼できました。大学運営は「対話を重視する」とのことでしたが、植木さんなら周囲の方や学生の皆さんも話しかけやすく、ちゃんと聞いてもらえるという安心感があるように思いました。学長として実現したいこともとてもはっきりしていましたので、今後の同志社大学を楽しみにしています。

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提供:同志社大学