青山学院大学のメインストリートを美しい緑で彩る銀杏並木に架けられた、オレンジ色の大きな横断幕。そこには「ZERO HUNGER」とある。最先端の文化・情報・流行を世界に発信してきたエリアに立地する青山キャンパスに「飢餓ゼロ」を意味する英文字はそぐわないかもしれない。だが、それこそが、青山学院大学の本質を物語っている。
この横断幕は昨年の世界食料デーに合わせたキャンペーンの告知で掲げられた。「飢餓ゼロ」とは、2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17目標の一つ。豊かで活力ある社会を未来の子供たちに手渡すための世界的な行動指針であり、青山学院大学では全学をあげて取り組んでいる。
阪本浩学長は「幼稚園から大学院まで擁する青山学院は、2024年の創立150周年に向けた4つのチャレンジを提示しており、SDGsはそれに対応する重要な課題」として、次のように語る。
「各学部でさまざまな活動を行っているほか、SDGs関連の研究を支援する新制度も創設。多数の申請があった中で12プロジェクトを採択しました」(阪本学長、以下同)
たとえば「アジアの農業の持続的発展」や「産学連携による食品ロスの低減対策」「健康な生活のための水質測定技術の開発」など17の目標の複数にまたがるテーマも多い。
「アメリカ人の宣教師が創設した3つの学校をルーツとし、キリスト教信仰にもとづく教育を目指し、人と社会へ貢献することが本学の理念。これはSDGsにおける包摂性(誰一人取り残さない)にも重なります」
東日本大震災後、いち早く大学の体育館を開放して多数の帰宅困難者を受け入れたほか、学生主体で「ボランティア・ステーション」という団体を立ち上げた。スクール・モットー「地の塩、世の光」が脈々と息づいているのだ。冒頭の横断幕も、そうした精神を象徴している。
青山学院大学は時代の要請に応えるべく、相模原キャンパスに地球社会共生学部、コミュニティ人間科学部を相次いで開設。昨年12月に就任した阪本学長は、青山学院創立150周年に向けて、ダイナミックに変貌する難しい時期の舵取りを行わねばならない。
「それらを俯瞰したうえで、全体を調整することが最初の仕事。青山学院の歴史を振り返り、これからの大学に求められる役割を確認する。それだけでは保守的に思われるかもしれませんが、すでに入試改革と教養教育の拡充に着手しています」
まず入試改革では、受験者の「思考力」「判断力」「表現力」を重視していくという。
「身に付けた知識を定着させる設問に変えていきます。日頃の勉強をしっかりやり、アクティブ・ラーニングなどに積極的に参加すれば、その経験が生きるような入試にします」
教養教育では、学部学科の枠を超えて履修できる全学共通教育システム「青山スタンダード科目」を設置しているが、これをレベルアップする予定だ。
「青山スタンダードでの学びを通して、生涯にわたり生きていくうえで力となる知識や技能を身に付けます。専門の異なる学生たちが混じりあい、本を読み意見しあい、議論を深める。入試改革が進めば、学生の質も変わってくるので、それに対応した少人数演習の増加や、キャンパスの外での授業も必要になるでしょう。それによって問題を発見し、解決できる人材を育成したいですね」
阪本学長の好きな言葉は帝政ローマの初代皇帝、アウグストゥスの座右の銘「ゆっくり急げ」だという。
「強引に改革を進めたカエサルを後継したアウグストゥスは、30年がかりでその悲願を実現しました。理想を諦めず、粘り強く合意を得ながら進めることが大切だと思います」
阪本 浩/さかもと・ひろし/青山学院大学 学長
1954年(昭和29年)生まれ。宮城県仙台市出身。文学修士(東北大学)。
1978年青山学院大学文学部史学科卒業。1980年東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程前期二年の課程修了。青山学院大学文学部史学科専任講師、助教授を経て、1999年教授に就任。その後、2016年に文学部長、大学院文学研究科長、2017年副学長を歴任。2019年12月青山学院大学学長に就任。