道を切り開く医師たち1

ボクサーとして戦うことが医師の自分を強くする
予備校

 プロテストに合格し、迎えた初戦……。怖さと緊張で足が震えたが、リングに上がるとそんな呪縛は解け、勢いよく一歩を踏み出していた。
 昨今はマルチに活躍する医師も増えているが、髙橋怜奈医師のように現役のプロボクサー選手も兼ねている医師は世界でもそういない。中学から大学までテニスをやってきた髙橋医師は言う。「ボクシングはつらい」と。昔から思い立ったらやってみなければ気が済まない性格だった。医師になってからバックパッカーとしてインドや東南アジア、アフリカなどを旅行した。ボクシングのほかにも、医師になってからベリーダンスを始め、週に1度スタジオに通っている。一見無謀とも思えるチャレンジが、医師としての自分を鍛える。

―医師を目指すきっかけは何でしたか。

 心の動きや精神的なものに興味があり、最初は精神科医になりたかったんです。大好きだったバンドのギタリストが自死し、「精神科に罹っていれば、死ぬことを思いとどまってくれたかもしれない」と痛切に感じました。

―どうして産婦人科医に?

 研修で産婦人科を回ったとき、20代で子宮頸がんを発症して子宮と卵巣を摘出した患者さんに出会いました。私も女性ですから、そのつらさがよくわかります。ワクチンを打っていれば、検診を受けていれば、と切に思いました。産婦人科のハードルは高くて、まだ検診の大切さが啓蒙されていません。また、産婦人科に来ることをためらう女性も多いです。精神科か産婦人科か迷いましたが、私が産婦人科医になって検診の大切さを広めようと思いました。
 でも、精神科医をあきらめたわけではありません。将来、精神科医になりたいと思ったとき、産婦人科医として診療や手術をした経験はプラスになると思います。今、産婦人科にやりがいを感じており、転科は考えていませんが……。

―産婦人科のどんな点が、面白いですか。

 私は女性ですから、生理やおりものの微妙な違和感も実感としてわかります。相談を受けた患者さんから「女性医師でよかった」と言われることも多く、励みになります。産婦人科は広い分野にまたがっているので、必ず自分の得意な分野があると思います。たとえばお産なら、命の誕生に立ち会えるという醍醐味がある。私は最初にがん患者さんを診たことで、腫瘍に興味を持っています。ほかにもホルモン治療や不妊治療など、外科的な分野や内科的な分野があり、それぞれに専門分野を深められる科だと思います。

時間を有効に
使うようになった

ボクシングという土壌で、自身の専門である産婦人科をきっちりとアピールする。試合のときに身につけるスポーツブラには、「検診」「ワクチン」の文字が。戦う医師としての取材も増えたが、公の場やSNSで検診の大切さを訴える

―ボクシングを始めたきっかけは、何でしょうか。

 ボクシング好きな友だちにたまたま誘われ、内山高志選手の世界戦を見たんです。すぐにはまり、即、内山選手が所属するジムに入会しました。初めはフィットネス感覚で通っていましたが、やるからには目標がほしい。ジムには女性のプロボクサーも所属しており、彼女たちの試合を見て、私もやってやろうと。

―医師とボクシングの両立は、大変ではありませんか。

 医師の仕事を集中してできるようになりましたね。今日はボクシングの練習があるから、何時までには終わらせようと段取りが上手にできるようになりました。以前勤めていた病院は当直が多かったので、もしかしたら難しかったかもしれません。
 職場の環境は上司に左右されると思います。上司によっては顔色をうかがって、仕事が終わっても帰宅することをためらうようなこともありますよね。でも、今は女性医師が上司で、仕事をきちんとすれば有給も夏休みもきちんと取得しましょうというスタンス。もちろん医師が私の根幹ですから、決しておろそかにはできません。その上でボクシングをやるために、時間を有効に使って仕事をやりくりしています。オンとオフの、時間の使い方が上手になりましたね。

―ボクシングが医師の仕事に役立っていることは?

 心身が鍛えられることは大きいですが、身をもってからだの変化を体験できたことで、自信を持って患者さんに運動を勧められるようになったことです。

ボクサーからドクターに変わる

 私自身、慢性的な肩こりに悩まされていたのですが、それがなくなりました。また、患者さんの気持ちも、わかるようになりました。緊急の場合は別ですが、「その日はコンサートがあるので、手術は別の日にしてください」と言われたら、以前は「そんなことよりからだのほうが大事でしょ」と、思ったかもしれません。でも、患者さんである前に一人ひとりそれぞれの生活があって楽しみがある。それを尊重したいと思うようになりました。
 医師としての仕事はずっと続けるつもりですが、女性として結婚や出産も経験してみたいと思っています。