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大学には名物といわれる施設や建物があることが多いが、福井工業大学はとりわけ異色といっていい。あわらキャンパス(福井県あわら市北潟)に、直径約10mに及ぶ北陸最大のパラボラアンテナが設置されているのだ。NASA(アメリカ航空宇宙局)の地球観測衛星などが発信する各種データをキャッチしてきたが、2016年からは「ふくいPHOENIXプロジェクト」として、超小型衛星の開発と打ち上げ計画などを進めてきた。プロジェクトは19年でひと区切りとなるが、これを発展・継承することも含めた新たな仕組みとして同年に発足したのが、AI&IoTセンターだ。
AI=人工知能は、すでに様々な分野で応用されている。IoTとは、あらゆるモノがインターネットにつながることを意味する。同センターでは、前述したパラボラアンテナが受信した衛星データだけでなく、ドローン(無人航空機)による空撮画像データに加えて、県の所有するオープンデータや企業が持つビッグデータなどをクラウドサーバーに集約。これをAIが多面的に解析して、新たな価値を創出することを目的としている。
同大学の掛下知行学長は、「簡単にいえば、宇宙からのデータと地球上の各種データを集めて、AIあるいはIoTを通して地域に役立つカタチにするということです」と説明する。
「パラボラアンテナも解析精度などをより向上させる予定です。それによって、海を汚染するマイクロプラスチックの精細な流動状況を宇宙から把握することも可能になるかもしれません。今の段階では詳しく説明できませんが、見えないモノを見えるようにする取り組みなどが進められています」(掛下学長、以下同)
すでに衛星データは、水稲などの局所的な管理を行う精密農業への応用などが研究されているため、AIとIoTとの本格的な連携によって、世界を驚嘆させるようなコンテンツが誕生する可能性は極めて高いといえそうだ。
また、これまで進めてきた産学連携をAI&IoTが支援することで、地域の活性化や産業創造に寄与するだけでなく、リカレント教育の推進も大きな使命としている。
リカレント教育とは、社会人が仕事に役立つ知識や技術を大学で学び直すことだ。同大学では19年10月から石川県のバス製造会社の若手社員向けに、週1回・全16コマの研修プログラムを実施している。これは北陸の大学では初の試みという。
「一般的なリカレント教育とは異なり、企業の教育ニーズを予めヒアリングした後に、それに対応したプログラムを提供することが本学の特長。こちらで用意した授業を選んでいただくのでなく、仕事の現場で必要とされる科目を開講します。今回はエンジンなどの機械工学系ですが、化学系の需要もあるのではないかと想定しています」
同大学は3学部8学科を擁しているので、理工系だけでなく、経営情報やデザイン系など文系のリカレント教育も可能。これが広く周知されれば、多彩な企業から様々な教育ニーズが寄せられるに違いない。
さらに、今のところは若手社員の高度化だが、少子化による人手不足から、いったんリタイアしたシニア世代の参加も期待されている。彼らがリカレント教育によって最新知識を身につければ、様々な分野で有用な人材として活躍できるはずだ。急速な技術革新を背景として、エンジニアの再教育も考えられる。もはや大学さえ卒業すれば十分という時代ではなく、不断に学び続けることが求められているのである。
「それを象徴する現代的なテーマがAIとIoTなのです。うまく進めば、このリカレント教育を通して企業との新しい共同研究が始まる可能性もあります。もともと本学は地域連携研究推進センターを通して産学連携を積極的に展開してきました。これまで産学連携といえば研究開発が中心だったのですが、人材育成も重要な課題になってきたといえるでしょう」
「AIとIoTは日進月歩で産業や生活に浸透するはず。AI&IoTセンターが開催したシンポジウムも大きな反響がありました。私たちはそれによって地域にどう貢献できるかを追求していきます。その意味で、本学は道元が13世紀に建立した永平寺のような知の拠点でありたいと考えているのです」
道元は比叡山の教えに満足できず、中国に渡って仏教を学び、帰国後は福井県吉田郡の永平寺を拠点として、最新の知識や思想を発信した。
「今でも福井は教育県であり、全国学力テストでは小中ともに12年連続で全国トップクラス※。本学もそれに対応した知の拠点を目指して、現代の最先端であるAIとIoTのセンターを設立したのです。リカレント教育で学ぶ社会人による密度の高い議論から、新しいニーズやシーズが生まれてくる可能性もあります。それでこそ知の拠点だと思うのです」
海外インターンシップもユニークであり、名物になりつつある。夏休みにタイとベトナムの日本企業で約3週間の長期にわたって実務を体験。英語で現地の人たちと交流し、文化や習俗にも深く触れるため、学生は見違えるほどたくましく成長するという。専門業者任せでなく、準備から運営までのすべてを大学職員が行うというから驚く。タイ・バンコクの「ASEAN事務所」に専任職員が常駐。学生をバックアップしているので、保護者も安心だ。実費は食費だけで、単位も取得できるため、参加希望者は年々増加している。
「小規模な大学ですが、海外13大学と国際交流協定を結んでおり、交換留学生の派遣や受け入れ、語学研修などを積極的に支援しています。ちなみに、大学院の修了時には欧米のようにガウンと角帽を着用するので、本人はもちろん、海外留学生の保護者も写真でその姿を見て感激するそうですよ」
宇宙や地域に向けて大きく開かれているだけでなく、グローバル社会にも密接なつながりを持つ。規模は小粒でも、ダイヤのようにキラリと輝く側面を数多く持つ大学なのである。
※文部科学省 2019年7月31日発表 平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査の報告書、集計結果に関する報道資料より
提供:福井工業大学