日本に根を下ろし50年

医療者・患者に寄り添い
超高齢社会の医療を支える

地域に根ざした外資系企業として宮崎県に透析液の自社工場を構え、 高い医療スタンダードを追求してきたバクスター。日本法人設立50周年を迎えた同社の ダニー・リスバーグ代表取締役社長に片桐圭子本誌編集長がインタビュー。 同社の軌跡や日本の医療ニーズに応える姿勢、多様な働き方、今後の展望を聞いた。

文/武田 洋子 撮影/吉場 正和 企画・制作/AERA dot.ADセクション

日本の自然を愛するリスバーグ社長。
効率性と社会保障の両立という課題を抱えるこの国の医療のパートナーとして、
バクスターは次の50年も寄り添っていくと語る

人工透析を中心に、日本の
医療ニーズに応えてきた歴史

ダニー・リスバーグ

ダニー・リスバーグ Danny Risberg

バクスター株式会社
代表取締役社長
1962年生まれ。米国で生まれ育つ。多国籍企業の日本法人で会長兼CEOとしてヘルスケアテクノロジー、消費財、照明などの事業分野を統括した後、2018年9月から現職。30年にわたり日本で暮らし、日本語に堪能。釣りと車の運転が趣味。米国医療機器・IVD工業会理事。

片桐 まずは日本法人設立50周年、おめでとうございます。私が御社を知ったのは社会人になった1992年でしたが、その時点ですでに四半世紀近く、日本でビジネスをされていたことになります。これまでの軌跡をお聞かせください。

リスバーグ 60年代後半は、日本で末期腎不全のための腎代替療法の一つ、血液透析が保険適用となった時期です。透析器や臨床検査機器などへの高まる社会ニーズに応えるべく日本市場に参入。法人を設立したのが69年です。82年には日本で初めて腹膜透析の薬事承認を取得、在宅での透析が可能になりました。

片桐 併せて患者さん向けのコミュニティー誌を発行したり、機器サポートを行う24時間コールセンターを設置したりされていますね。

リスバーグ それらも含めて、患者さんの在宅医療を支えるパイオニアだと自負しています。近年は腎代替療法のリーディングカンパニーとしての地位を確立し、さらに手術前後の周術期医療領域や血液浄化領域にも、革新的な医薬品や技術を導入しています。「患者さんの生命を守る」という創立以来のミッションに50年間コミットし続けていることを誇りに思い、この先の50年も日本のヘルスケアの一翼を担っていきたいと願っています。

片桐 在宅でできる腹膜透析は、通院が必要な血液透析に比べると普及があまり進んでいません。なぜなのでしょう。

リスバーグ 日本では血液透析の普及率が約97%なのに対し、腹膜透析は約3%に過ぎません。これは海外の先進国と比べても低い数字です。理由としてよく挙がるのは医療者への啓発・教育が十分に行きわたっていないことや、自分で治療することへの患者さんの不安感などです。末期腎不全の治療においては、医療者と患者さんが十分に話し合って症状やライフスタイルに合う治療法を一緒に決定する「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM:協働する意思決定)」が注目を集めていますが、当社としては日本の患者さんや医療環境ニーズに特化した製品を届けるとともに、より良い選択の一助となれるよう、治療選択肢の適切な情報の提供を続けています。

※一般社団法人日本透析医学会「2017年末の慢性透析患者に関する集計」から

宮崎の自社工場で雇用を創出し、
成長の場も提供

片桐 それにしても外資系企業の中ではかなり早い日本市場参入です。当時はハードルの高いチャレンジだったのでは。

リスバーグ 日本の透析ニーズの高まりは見過ごせないものでしたし、当時から潜在能力の高い市場でもありました。スムーズな参入のために、当初は日本企業との合弁会社として設立しています。

片桐 米国創業のグローバル企業ながら、日本に特化した製品開発や、宮崎県に90年から工場を構えるなど、しっかりと根を張っているイメージです。日本との向き合い方を教えてください。

リスバーグ グローバル企業として、どの国においてもそれぞれの地域社会にコミットし、各国のヘルスケアシステムに貢献することを哲学にしています。特に腹膜透析は毎日行う治療法です。厳しい品質基準を満たし安定供給するためにも、国内に工場を設置する必要があり、透析液に使う良質な水に恵まれた宮崎県を選びました。

片桐 日本法人の社員数が約700人、そのうち宮崎工場に約300人がいらっしゃると伺っております。

リスバーグ 国内拠点の設置は、近隣地域の雇用創出にも貢献できます。宮崎工場も県内外から集まった人々が長いキャリアを築き、成長する場所になっているのが本当にうれしいです。

片桐 社内には勤続42年の方がいるとのこと。それだけ長期にわたり外資系企業でキャリアを構築される方は少ないのではないかと思います。

リスバーグ 世界で信頼を得たイノベーションを日本の医療ニーズに合わせて提供する。そして日本社会と調和しながら、人材の成長と持続可能性に企業として貢献する。この二つが当社が半世紀をかけて実行してきたことであり、これからも変わらないところですね。

多様な人材が企業を強くする
柔軟な仕事環境で成長を後押し

片桐 圭子

片桐 圭子 Keiko Katagiri

AERA 編集長

片桐 御社は、「もっとも働きがいのある職場」という目標も掲げているそうですね。どのような取り組みをされているのでしょう。

リスバーグ 長く働いている人がいるというのは即ち、豊かな知見が蓄えられているということです。それらを大切にする一方で新しい考えも積極的に採り入れています。年齢も経験もバックグラウンドも多様な人々を内包することが、ビジネスの成長力をさらに強いものにしてくれます。そして多様な人々をひとつにするのが、私たちのミッションの実現には必須です。私たちの仕事がどのように貢献できるのかを学ぶため、患者さんのお話を伺う社内講演会なども実施しています。そして多様性に即した働き方を推進するために、在宅勤務やフレックスタイムなどの仕組みも早い時期から導入しています。さらに医療のソリューションパートナーとして高い専門性が求められるMRやクリニカルコーディネーターといった職種は、ホームオフィス制を採用しています。通勤に時間を使わずに仕事に集中し、家族との時間も大切にするワーク・ライフ・バランスを保ってもらうのが目的です。

片桐 女性活躍についてはいかがですか。

リスバーグ ダイバーシティー&インクルージョン企業として世界中で認知されている当社ですが、日本法人における女性シニアリーダー層の割合は30%超。悪くはありませんが、もっと伸ばしたいと思っています。そのためには平等なルールと成長の機会が必要ですね。現時点で満足してしまえばそれまで。停滞しないよう、常により良い状態に向かうための道を探しています。

片桐 在宅勤務やフリーアドレスは日本企業にも広がりつつあります。でも企業によっては「目の前にいない社員の評価が難しい」という課題に直面するようです。御社はいかがですか。

リスバーグ 役割と責任をはっきりさせる仕組みがあれば、各人のゴール設定は難しくありません。当社ではデジタライゼーション(業務の効率化)を進め、連携しやすくも各々の仕事に集中できる環境の構築に力を入れています。問題はフォローアップの部分でしょうね。要は上司との密なコミュニケーション機会の設定です。確かに最初は目の前にいない人間をバーチャルで管理するために、マネージャー・部下の両者に学んでもらうことも多いのは事実ですが、ハード面の整備とソフト面の両輪への注力があって初めて成り立つものです。最初を乗り越えれば、仕組みが上手く機能して利点のほうが上回ると感じています。

これからも日本に届け続けるのは
「より良く生きる」ための医療

片桐 リスバーグ社長は日本に暮らして30年になるそうですね。

リスバーグ 当社に来る前から日本に住んでいました。当社に招かれたとき、実はもう引退しようかと考えていたのです。でも世界的に評価が高く、信頼されている企業に声をかけてもらえたことは光栄でしたし、再び社会の役に立てるのならば、とこの職を引き受けました。

片桐 私たち日本人についてどんな印象をお持ちですか?

リスバーグ やると言ったことをやり抜く、その力の注ぎ方は他国と比べても特別ですね。そして一度築いた信頼関係が長きにわたって続いていく。日本の方は信頼を築く難しさ、失う怖さもよく理解されたうえで、相互信頼を育む文化を本当に大切にされていると感じます。

片桐 日本の医療についてもよくご存じですが、世界に先駆けて超高齢社会が進んでいくこの国に、御社は今後どのように寄り添っていかれるのでしょう。

リスバーグ 高齢社会はどうしても医療財源を圧迫します。だからこそ価値の高い医療、効果効率の追求が期待されるのです。当社のイノベーションをもって、手術や急性期・回復期の医療の質の向上、命と暮らしをより良く支える治療法の普及に寄与すべく邁進を続けます。

片桐 御社がこの先も日本医療とともに在ること、心強く思います。ありがとうございました。

片桐圭子の編集後記

 休みの日は海や渓流釣りに出かけるのがお好きというリスバーグ社長。激務の合間をぬって毛針を自作されるのだと楽しそうにお話しくださいました。シンプルで明快な英語の言葉選びに、英語を母国語としない人材が集まるグローバル企業の文化を感じます。各国にしっかり根を張って、患者さんの気持ちも大切にする姿勢には共感します。社内外のコミュニケーションにも心を配るご様子に、温かいお人柄が表れていました。

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提供:バクスター株式会社