交通機関の枠を超えて
人々の生活を支えるJR東日本

24時間、あらゆるシーンで
さまざまなサービスを提供

発足から32年。JR東日本は、人々の移動をより安全に、便利にそして快適に進化させるべく、力を尽くしてきた。いまやそのサービスは交通機関という枠を超え、私たちの生活のさまざまなシーンを支えている。次の30年にJR東日本が果たす役割はどのようなものだろうか。子育て支援、女性の働き方、これからの展望について深澤祐二社長に聞いた。

文/武田 洋子 撮影/スケガワ ケンイチ 企画・制作/AERA dot. AD セクション

駅型保育園で子育てを支援
HAPPYハッピー CHILDチャイルド PROJECTプロジェクト

片桐 アエラ読者の中心は30〜50歳代の働く男女です。子育て中だという方も非常に多く、そんな読者にとって御社の子育て支援事業である「HAPPYハッピー CHILDチャイルド PROJECTプロジェクト 」の注目度は高いと思います。まずはこのプロジェクトの全体像を教えていただけますか?

深澤 鉄道を利用するお客さまの半数を占める女性にフォーカスした試みとして、2011年に誕生したのが「HAPPY CHILD PROJECT」です。仕事と子育ての両立を応援しようと、駅ビル内や駅周辺に、保育園や学童、親子コミュニティカフェを開設していきました。父親がお子さんを預けていく姿も多く見られ、男性の育児参加支援にもなっているのかなと思います。

片桐 最寄り駅で子どもを預けられるのは時間のロスがなくて便利ですね。子どもがSuicaスイカで改札をタッチすると保護者に通過情報が通知される「子ども見守りサービス『まもレール』」は、共働きで子どもを育てる家庭にとって、ないと困るものの一つです。

深澤 関連会社のセントラル警備保障との共同事業として会員向けに開始したサービスですね。今後は他の鉄道事業者との連携を図りながら、対象駅をさらに広げていきますよ。

片桐 多世代が交流できるまちづくりも始めているとうかがいました。

深澤 はい。子育て支援と高齢者福祉の複合施設「COTONIORコトニア」を開業、多世代の交流というテーマを実現しました。こうした施策は、保育園や高齢者福祉施設、賃貸住宅、商業棟を備えた「多世代交流型まちづくり」へと広がりを見せています。

どんどん便利になるエキナカ
列車に乗らない利用が増える

片桐 私自身、JR駅の近くで暮らしていますが、駅ビル内のファッション雑貨や食料品が充実してどんどん便利になっている実感があります。

深澤 女性にとって魅力ある駅づくりとして、パウダールームや授乳室を設置するほか、駅構内のスペースを活用してエキュートやグランスタを中心とするエキナカ事業を発展させてきました。キオスクで扱う商品も、昔とはずいぶん変わっているでしょう。おっしゃるような情報感度の高いテナントをはじめ、生活を支援するクリニックなども誘致し、鉄道を利用しなくても駅ビルに立ち寄るお客さまを増やしています。そうすることが、駅を中心とした街全体の価値を高めることにつながると考えるからです。当社としても、事業を通じて外とのつながり、地域とのつながりをより深く感じられるようになりました。

仕事と家庭の両立をサポートしようと、首都圏を中心とした沿線に保育園などの子育て支援施設を開設。2022年度末には150カ所を目指す。

移動自体の価値を高める
レストラン列車が人気

片桐 「HAPPY CHILD PROJECT」のメンバーは女性が中心なんですか?

深澤 当社はもともと女性が少ない会社でして、発足当時は社員数に占める女性の割合が0・8%に過ぎませんでした。現在は新卒の女性採用比率が3割を超え、ようやく全体で約13%まで増えてきたところです。そうした背景から、人数としては男性が多いんですが、このプロジェクトに関しては女性社員の声を重視して反映しています。成功した事業のモデルケースと言えるのではないでしょうか。

片桐 結果、女性だけではなく誰にとっても便利で元気づけられるプロジェクトになりましたね。観光分野でも女性を対象にした商品を企画されています。

深澤 旅行を決めるのはたいてい女性ですからね(笑)。「のってたのしい列車」という、移動に新たな価値を創造したのが「伊豆クレイル」「フルーティアふくしま」「TOHOKU東北 EMOTION エモーション 」といった列車です。各列車とも豊かな自然の景観と同時に、車内ではその土地の食材を使ったオリジナルスイーツや料理を提供し、ご好評いただいています。

片桐 震災以来、毎年5月の連休には東北へ旅行しているのですが「TOHOKU EMOTION」は大人気でなかなか予約が取れません。

より柔軟に、多様に
働き方の選択肢を増やす

片桐 御社の社員数は約5万5千人とのことですが、その規模で働き方を改革していくことは、日本全体にインパクトを与えます。また御社が掲げる「究極の安全」を追求するには、社員一人ひとりが健やかに働ける環境が不可欠であると思うのですが、社内ではどのような働き方を目指しているのでしょうか。

深澤 育児や介護支援の制度については、法令を上回る基準で整備をしてきました。今は次のステップとしてより柔軟な働き方・制度を目指しています。例えば今春からは乗務員の勤務制度を改正し、育児や介護中の乗務員を対象に、行路や勤務時間の選択肢を増やしました。他職種へも順次広げていきます。あとはサテライトオフィス勤務や在宅勤務といったテレワークを導入することで、多様な働き方と効率性を追求していきます。

片桐 以前は男性ばかりだった車掌や運転士といった職種にも、女性の姿が見られるようになりましたね。

深澤 それはよく言われます。国鉄時代は完全な男社会でしたからね。女性乗務員の数は昨年4月の時点で約2千人、乗務員全体の約15%を占めています。

深澤 祐二

深澤 祐二 Yuji Fukasawa

東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長
1954年、北海道生まれ。東京大学法学部卒業後、日本国有鉄道入社。国鉄分割民営化により87年に東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)入社、人事部勤務となる。財務部次長などを経て2003年、総合企画本部投資計画部長。08年常務取締役、12年代表取締役副社長。18年4月から現職。

管理職には男女を問わず
多彩な人材が求められる

片桐 女性がいない職種はありますか?

深澤 今はないです。保線(線路の管理)にも女性がいる環境です。だからこそ、これまで以上の柔軟性が働き方に求められているのです。

片桐 配慮のし過ぎも問題になりがちで、子育て中でも「もっと働きたい」という女性はいる。結局、選択肢が増えることが最良のあり方なのだと思います。

深澤 同感です。入社10年目の女性社員の定着率の推移を見ると、2003年は約50%だったのが、18年には約90%まで上がっていて、取り組みの成果を感じると同時に、今後も推進していかなければと思います。男性の育児休業取得者も100人を超えました。これからは男女とも、介護休業の適用者が増えていくでしょう。

片桐 管理職についてはいかがですか。

深澤 女性管理職の数は年々増え、現在は約5%です。ダイバーシティーの実現には、男性でも女性でも、いろいろな経験を積んだ人が管理者になることが重要ですね。

片桐 女性管理職を意識的に増やすことについて疑問視する声もありますが、私自身、男性ばかりの中で会議をしていて他の人が気にならないことに引っかかることがあります。性差の問題というよりも、その場におけるマイノリティーの視点が大切ではないかと。また取材を重ねるなかで、企業が女性管理職を増やせるかどうかはトップの意志による部分が大きいとも感じています。

24時間、あらゆるシーンで
利用できるサービス

片桐 ここからは経営についてお聞きします。社長就任の直後にグループ経営ビジョンとして「変革2027」を発表し、「すべての人の心豊かな生活を実現する」という決意を述べられました。その中で「鉄道インフラを起点としたサービス提供」から「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」への転換を宣言されていますね。

深澤 これまで我々はダイヤ改正や増発、車両の改善、駅の改装など「鉄道インフラを起点としたサービス提供」によって経営基盤を固めてきました。しかしこれからの30年について言えば、今までのビジネスモデルで成長し続けることはできません。人口は減少し、「電車に乗って出勤する必要がない」働き方が増えていくでしょう。サステナブル(持続可能)であり続けるためには発想を、従来の「駅に入ってから出るまで」から、「朝起きてから夜寝るまで」へと転換する必要があるのです。それは「移動を始めとした検索・購入・決済」のサービスをワンストップで24時間、あらゆる生活シーンにおいて提供するということです。ただし、事業フィールドは広がりますが、根底にあるのは変わらず、お客さまからの「信頼」です。そのためには「究極の安全」を追求しつつ、新しい情報技術を取り込んで、価値を創出していかねばなりません。

片桐 すでに動いていることはありますか。

深澤 安全に関しては凡事徹底、ルールを守って一人ひとりが安全を意識するという姿勢を貫きます。近年の自然災害に対しても、耐震補強や異常気象の予測精度向上をはじめとするハード対策と、有事のオペレーションというソフト面、双方に力を入れています。利便性を高めるためには、19年度下期に相模鉄道との相互直通運転を開始、首都圏多方面から羽田空港へのアクセスをシームレスにつなげる構想を進めるほか、より速く、快適で安全な次世代新幹線の開発や、ドライバレス運転の実現に向けた実証試験など、技術革新の取り組みを加速させます。生活サービス事業として注目度が高いのは、品川―田町間の開発ですね。20年に「高輪ゲートウェイ駅」を開業し、そこを中心にオフィス、文化創造施設、ホテル、住居棟などを備えたまちづくりに着手します。こちらは「グローバルゲートウェイ品川」をコンセプトに、新たな国際交流拠点の形成を目指して、多様な検討を進めているところです。こうしたまちづくりはつくって終わりではなく、変化し続ける姿に深く関わっていくつもりです。

片桐 つくって30年保たせるというビジネスモデルではなく、刻々と変化させていく。インターネット的な発想ですね。

Suicaで新幹線も買い物も
生活をシームレスに支える

片桐 圭子

片桐 圭子 Keiko Katagiri

AERA 編集長

片桐 Suicaの位置づけも重視されています。実際に都市生活のインフラとしてすでに欠かせないものとなっていますが、今後はどう進化していくのでしょう。

深澤 Suicaは総発行枚数が7千万枚を超えました。「変革2027」が目指すのは、Suicaを共通基盤とする、さらに便利な生活サービスの提供です。例えば従来の券売機やATM等に加え、他社アプリでもSuicaのチャージを可能にしています。飲食店やレジャー施設など決済できる場所はどんどん増えていくでしょう。Suicaで新幹線に乗車できるチケットレスサービスの開始は、よりシームレスな移動を可能にするはずです。とくに重視しているのが、コンパクトな仕組みの構築です。ローコストでSuicaを導入できれば、地方の小さな駅、タクシー、バスでも使えるようになりますから。地方をどう活性化するかは大きな課題です。地域の多様なサービスとSuicaの結びつきを高めた、地域社会の実現を目指していきたいですね。

片桐 東日本大震災後の取材で印象深かったのは、「日常を支える鉄道の復旧が復興の第一歩だ」と感じる被災者が多かったことです。御社には単なる交通機関という以上の存在感があり、寄せられる信頼の大きさを改めて思い知らされました。

深澤 あと1年で全線区の復旧工事が完了します。これまでの過程で多くの方に喜んでいただくことができました。震災のダメージは大きかった一方で、自らの使命を再認識するとともに、多くの教訓を得られたと感じています。これからも一歩一歩、「究極の安全」に着実に近づけていきます。

片桐 編集長のように、東北に旅行される方が増えれば被災地を勇気づけることにつながるでしょう。

片桐 それにしても、従来のビジネスからすると大きな変革ですね。特にどのようなことを意識していきますか。

深澤 これからの30年は、人材の確保も含め、他業種、地方自治体、NPO、スタートアップ企業といった外の世界との連携がカギになりますね。外との交流を通して、我々のリソースである駅という膨大な数の人間が集まる空間も、思いがけない新しい形で活用してもらえるかもしれません。

片桐 交通機関という枠を超えたビジネスの広がりを楽しみにしております。

片桐圭子の編集後記

 メモもご覧にならず、女性活躍や事業の今後について話され、それがとても具体的。「すべての人の心豊かな生活を実現する」というご自身の意思が明確で、社員の方々ともコンセンサスが取れているのでしょう。私自身、よく利用する駅がどんどん便利になっていくのを目の当たりにしていて、一人の利用者として今後の展開が楽しみです。災害時において、JR東日本の存在感は単なる交通機関の枠を超え、被災した人々の希望を象徴するものであると強く感じています。

詳しくはこちら

https://www.jreast.co.jp/

提供:JR東日本