新たなビジネスモデルに挑戦する
創薬ベンチャー・メディシノバ

日本生まれの新薬の卵を
孵化させ、世界に届ける

既存薬を一から精査し、十分な治療がまだ確立していない疾病の薬として再開発(ドラッグ・リポジショニング)、世界市場への販売を目指す創薬ベンチャー・メディシノバ。
CMO(最高医学責任者)を務める松田和子医師の横顔と、メディシノバが追求する社会的意義を、片桐圭子本誌編集長が聞いた。

文/武田 洋子 撮影/慎 芝賢 企画・制作/AERA dot. AD セクション

同世代の活躍に触発されて世界へ

松田 和子
Kazuko Matsuda

メディシノバ・インク CMO

まつだ・かずこ/札幌医科大学大学院において医学博士取得。渡米し、ハーバード大学公衆衛生学部で公衆衛生学修士取得。日米両方の小児科専門医取得。現在はメディシノバのCMOとして活躍中。今年8月、世界で最も権威ある総合医学雑誌の一つ「THE NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE」に共著論文が掲載された。

片桐 先生は札幌医科大学のご出身で、苫小牧市立病院で勤務されていたそうですね。私も高校時代に苫小牧市に住んでいまして、どこかでニアミスしていたかもしれません。

松田 そうでしたか! 苫小牧時代はとにかく多忙で、人生のどんな局面も、あの経験があれば乗り切れると思えるほどです(笑)。

片桐 北海道からハーバード大学へ進学されたのはどういう経緯だったのでしょう。

松田 札幌医大の院生のとき、医学系の雑誌に載っていたハーバード公衆衛生大学院の留学生たちのリレーエッセーを読んだんです。同世代の人たちが発展途上国などで大きなプロジェクトに関わっていることに、衝撃を受けました。もともと外の世界に興味があり、それで留学を決意しました。公衆衛生学を選んだのは、小児科医である父の「アメリカで公衆衛生を学びたかった」という言葉がずっと心にあったからです。

片桐 お父様の影響だったのですね。

松田 でも1年間のプログラムだと浅く広くしか学べず、学位は取れても専門家とは言えません。卒業後、あるNGOで働いていたとき、同僚から「なぜ米国の医師免許を取らないの?」と聞かれ、そうか、免許があれば臨床医として働けるんだ、と。

片桐 おいくつくらいのときですか?

松田 そのとき30歳くらい。日本では同期の人間が中堅医師として活躍していて、自分だけ学生でいることに焦りはありましたが、今、挑戦しないと後悔すると思い、一から勉強をし直して米国の医師免許を取りました。その頃、バイオベンチャーとの共同研究を通じてお会いしたのが、メディシノバのCEO岩城裕一先生です。札幌医大の大先輩でもあり、私がメディシノバに参画するきっかけとなりました。

少数精鋭のベンチャーの強みを生かして開発

片桐 圭子

片桐 圭子 Keiko Katagiri

AERA 編集長

片桐 メディシノバの具体的な事業内容を教えていただけますか?

松田 現時点でまだ十分な治療が確立していない疾病の薬を世に出すことが私たちの使命です。そのために、すでに日本で承認済みの薬や、開発が断念された新薬候補の中から、最新の医学的根拠に基づいた新たな可能性を探り、治験を重ねています。

片桐 すでに承認済みの薬をですか?

松田 はい。現在、何百万人という患者さんが服用していて安全性が実証されている薬に、他の疾患への新たな薬効が認められることがあります。例えばぜんそくの薬が脳の変性疾患に良い影響を与えるというような。このように既存薬を別の適応で開発し、認可を受けるわけです。

片桐 まだ治療薬のない疾病を対象としているのはなぜですか。

松田 大手の製薬企業は利益を出さなければいけませんから、小さなマーケットには注力しにくいものです。その点、ベンチャーは身軽ですし、海外から持ち込まれる小さなプロジェクトにも迅速に対応できるのが強みです。

片桐 直接的に社会の役に立ちますね。

松田 特に進行の早い病気の場合、患者さんにとっては一日一日の時間がとても貴重ですから、スピーディーに対応しなくてはと思います。

片桐 CMOという松田先生のお仕事はどういうものなのでしょう。

松田 一言でいえば研究開発ですが、スタッフが少ないので実質は「何でも屋」です(笑)。発表されている統計や論文を一例ずつ見直し、治験のプロトコルを書き、基礎研究の相談を受けたり、用法特許のための準備を整えたり。用法特許は、米国、中国、日本などですでに多数承認されました。

片桐 今年の8月には世界で最も権威のある総合医学雑誌の一つである「THE NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE」に共著論文が掲載されたのですね。毎日、ものすごくお忙しいのでは。

松田 確かに仕事相手が世界中にいるので、深夜だろうと関係なくメールが入ります。しかしどれだけ大変でも、患者さんの命に直結する判断を次々に迫られた苫小牧時代ほどではないですよ(笑)。

役割分担が明確でメリハリのある米国

片桐 女性医師として働くなかで、日米の差を感じられることはありますか?

松田 小児科も臨床開発もすごく女性が多い現場なのですが、米国では患者さんと上手にコミュニケーションをとれる医師が歓迎されるので、いっそう女性の方が向いていると思えます。日本との大きな違いは働き方のシステムです。医師しかできないこと以外は、コ・メディカル(医療スタッフ)が行うという役割分担が確立していて、引き継ぎの時間が来たらスパッと仕事を終えられる。そういう労働環境が、ワーク・ライフ・バランスを取りやすくしています。日本では医師不足と言われますが、働き方の見直しで改善が可能なのではないでしょうか。

片桐 それは一般の企業にも言えることですね。同じ時代に北海道で過ごした女性として、今後のご活躍を楽しみにしています。

メディシノバ

MediciNova,Inc.

2000年に米国サンディエゴ市で設立。05年に東証ジャスダック(大証ヘラクレス)、06年に米国ナスダック上場。日米両株式市場に12年以上重複上場する唯一のバイオベンチャーである。起業家で医師の岩城裕一CEO、松田CMOを含め、スタッフは日米合わせて9人。開発に特化しているため研究や製造の機能を持たず、プロジェクトに応じて優秀な人材を集め、チームを組む。すでに日本で承認済みの薬、あるいは開発が断念された新薬候補をライセンス導入し、松田CMOが中心となって一例ずつ統計や論文をチェック、新たな効能の可能性を探り、臨床試験を重ねる。創薬の対象はまだ治療薬のない疾病で、世界市場に向けた販売を目指す。メディシノバはメディスン(医学)とノバ(新しい)を合わせた造語。

片桐圭子の編集後記

 創薬には一から積み上げていくほかに、途中で頓挫しているものの可能性や、既存薬の新たな効能を探るというかたちもあるのだと知りました。治療薬を待ち望む患者さんにとっては時間の短縮にもなり、合理的な発想の転換だと思います。情報技術を駆使して世界中の知見とコンタクトする、現代ならではのスピード感ですね。米国医療界の役割分担のお話は、一般の会社でも取り組めることであり、日本社会の課題解決につながると感じました。

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提供:メディシノバ