コンサルタントは大学生

「住みたい街」として長年人気を誇るエリア、吉祥寺。オシャレなカフェや公園に囲まれた街はまた、近隣に大学が点在する学びの街でもある。そこではごく自然に、学生と企業、社会と大学とが交わっているという。

文/安楽由紀子 写真/伊ケ崎忍
企画・制作/AERA dot. AD セクション

 DMの封入、お菓子の箱詰め、ラベルのシール貼り。東京・武蔵野市にある社会福祉法人武蔵野の施設では、知的障がいや身体障がいを抱える人が、工賃を得て作業を行っている。その施設になぜか、大学生がやってくる。  学生たちは作業をじっくり見てメモをとり、ときにはビデオにおさめて帰っていく。これは後に、人間工学や経営工学に基づいた分析をして、改善策を提案するためだ。コンサルタントさながらの活動をするのは、近くにある成蹊大学の学生たち。彼らはなぜ、このような活動をしているのだろう?

月の平均工賃は15000円台

 もとは同大学理工学部で人間工学を研究する大倉元宏教授の発案で始まった。人間工学とは、人間の自然な動きに合わせて、設計やデザインを検討する学問。大倉教授がアンケート用紙の封入・封緘を武蔵野福祉作業所にお願いしたところ、同所が教授の研究に興味をもち、「生産性を上げるために力を貸してもらえませんか」と依頼した。2013年にプロジェクト型授業である「吉祥寺プロジェクト」に発展、現在も続いている。

武蔵野福祉作業所の副施設長 本郷倫子さん

「複雑な作業も治具を使えばできることもある。大学の専門的な知識をお借りできることは大きな力になります」

社会福祉法人武蔵野が運営する施設

社会福祉法人武蔵野が運営する施設

 このプロジェクトは「体験型授業」以上の価値をもつ。実は、障がいをもつ人の平均工賃は月額わずか1万5033円(※)で、自立して生活するには極めて不十分だと問題視されている。同作業所の副施設長・本郷倫子さんは言う。
 「障がいがある人もない人も、働く価値は同等なはず。しかし現実は、受注金額が十分ではなく、自立できるだけの報酬を渡すことができません。作業の精度やスピードを上げることで、改善を図らねばならないのです」
 トヨタの「カイゼン方式」に見られるように、業務の改善は日本人の得意とするところだ。だが武蔵野の施設においては、障がい者の特性を踏まえた改善が必要になる。

 例えば、折り紙のセット作業。絵柄ごとに5枚ずつセットするが、数を数えられない作業者もいる。大倉教授の人間工学研究室に所属する理工学部4年の世古純基さんは、木枠に1枚ずつ折り紙を入れ、結果として5枚セットになる治具を提案した。セットすると滑り台のように折り紙が5枚セットで落ちてくる仕掛けもつくり、楽しんで作業できるようにした。

折り紙の丁合い治具

世古さんが作った「折り紙の丁合い治具」。木製の枠内に1枚ずつ入れ、すべての枠が埋まったら5枚セットになる仕組み

 同じく同研究室4年の橋本玲英さんは、ボタンひとつで正確かつスピーディーに作業ができる仕組みを考えた。ベルトコンベヤーを用いた治具で、トランプのようなカードを4枚セットにするために使う。大量のカードをベルトコンベヤーにのせて動かすと、4枚ずつ通る設計にした。

ベルトコンベヤーを用いた治具

橋本さんが作った「ベルトコンベヤーを用いた治具」。木製のバーを通るときに4枚セットになる

 両方とも生産性の向上は確認できたが、実用化のためには、治具の大きさやコストにおいて検討課題が残った。だが、セットした折り紙を狭いスペースにまとめて置ける治具など、学生発の提案が「作業になくてはならないもの」に変わったケースもある。
 「企業ではなく大学生の研究だからこそ、アイデアを自由に考えることができ、思いを形にすることができた」(橋本さん)
 また2人とも障がいをもつ人との接点はそれまでほとんどなかったが、何度も足を運ぶなかでイメージは大きく変わったという。作業の手さばきは自分たちより速い人も多く、不得手なこともあると同時に、得意なところもたくさんあることを知った。
 「障がいをもつ方と仕事をするのは難しいのではないか、という思いはなくなりました」(世古さん)

「お互いさま」といえる社会に

 大学生の提案で、作業所の業務方法は着実に変わっている。さらにこの活動、社会的にも大きな意義があると大倉教授は考える。
 大倉教授はもともと、視覚障がい者の安全移動を研究していた。視覚障がいをもつ人はまわりの音環境の影響を受け、確実な手がかりがないとまっすぐ歩くのが難しいとされる。このような特性はもっと知られてもいいが、日本では障がい者と同じ学校に通うことも、一緒にご飯を食べる機会もほとんどない。
 大倉教授は、社会に出る前の大学生が障がいをもつ人と協働することに価値を見いだす。
 「本来、社会は"お互いさま"で支え合って成り立つもの。多様な人たちが交わり、お互いの特性を知ることができるこの取り組みが共生社会をつくる。この活動の本当の価値は、彼らが社会に出て、5年、10年後に表れるのではないでしょうか」

理工学部システムデザイン学科 大倉元宏教授

「当校の提案が、作業所の生産性アップのみならず、障がいをもつ方の自立につながることが夢」

 先の本郷さんは、福祉教育的な効果も指摘する。
 「さまざまな企業で障がい者の雇用が進んでいますが、定着率はまだまだ。社員のみなさんのご理解とご協力がないと、継続して働くことは難しいのです。長期的な話ですが、学生のみなさんがここで学んだことを社会に生かしていただけたらうれしいです」
 学生たちの研究は後輩たちに受け継がれ、年々深化している。大学の研究が実際の業務に生かされ、共に活動する場になる。大学と社会はいま、手を取り合う関係になっている。

(※)就労継続支援B型事業所における平成27年度の全国の平均工賃、厚生労働省調べ

人間工学研究室4年の橋本玲英さん(左)と瀬古純基さん(右)

理工学部4年の橋本玲英さん(左)と世古純基さん(右)。3年生のときに「吉祥寺プロジェクト」で本テーマに取り組み、4年時も研究をつづけ卒業研究とした

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