私たちにとって身近な政治である地方自治。「共生社会」のために地方自治はなにができるのか。成蹊大学法学部の教授で、地域共生社会研究所の浅羽隆史先生が解説します。

文/安楽 由紀子 写真/今村 拓馬 
企画・制作/AERA dot. AD セクション

 地方自治は私たちが自由に、よりよく生きるために必要なもののひとつ。イギリスの法学者であるジェームズ・ブライスは「地方自治は民主主義の学校である」と言いましたが、その言葉通り、民主主義を実現する重要な仕組みでもあります。
 
 たとえば保育園不足の問題。保育園をつくるべきか、つくるならどこか、その財源はどうするか、その計画に賛成か反対か……住民の声を聞きながら進める過程は、民主主義の基礎そのものです。
 地方自治には「国が行うより効率がいい」という側面もあります。たとえば、国会議員選挙の選挙事務。投票所はどこに設置したらいいか、選挙ポスターをどこに貼ったら広く伝わるかなど、いわゆる選挙事務は国より地域で行うほうがスムーズです。
 
 このように地方自治は、私たちが生活するうえで、なくてはならないものです。私は、そのうえで「共生社会を実現するうえでも重要なもの」と捉えています。なぜでしょうか。その理由をご説明する前に、まず地方自治の歴史をおさらいしましょう。

中央集権国家から地方分権へ

 日本の地方自治のあり方は、時代によって変化しています。まず江戸時代は、地方分権のベースとなる「藩」があったため、中央に幕府はありつつも、地方はアメリカの州のような自立性がありました。明治時代に廃藩置県によって一気に中央集権が進みましたが、第2次世界大戦後に日本国憲法と地方自治法が施行され、自治権をもつ地方公共団体が生まれました。
 終戦直後は、食を確保し、なにより生き残ることが重視されました。生き方もいまほど多様化していなかったので、人・モノ・カネ・情報の多くは国に集められ、工業地帯をつくる、東海道新幹線を開通させる、などの大事業を国主導で進めました。地方自治体はありましたが、主な仕事といえば、ベビーブームでパンク状態だった小学校を整備することだったかもしれません。

 しかし価値観が多様化し、自治体の課題もさまざまになって以降は、地方発の取り組みも見られ始めました。私が「共生社会に必要」だと申し上げたのは、この自治体のありようです。
 たとえば、成蹊大学がある東京・武蔵野市。ここはコミュニティバス「ムーバス」の発祥の地として知られています。武蔵野市は江戸時代にできた農道をそのまま使った道が多く、交通量が多いにもかかわらず歩道が狭いため、大型路線バスが入れない不便な地域が多くありました。結果、駅前は通勤・通学用の自転車であふれかえり……そんな問題を解消するため、導入されたのが小型バスです。

武蔵野市の先駆的な取り組みの例
1967 独自の児童扶養手当
1981 福祉資金貸付制度(リバースモーゲージ、2015年3月廃止)
1990 違法駐車防止条例制定
1993 障害の種類・程度を問わない多機能施設(武蔵野障害者総合センター)開設
1995 店舗一体型公設自転車駐車場完成
コミュニティバス「ムーバス」運行開始
環境緑地制度創設
セカンドスクール事業全市立小学校導入
1999 寄付講座開講
2001 全市立小中学校でISO14001認証取得

出典:『教養としての政治学入門』(成蹊大学法学部編集/2019年刊、ちくま新書)

 交通インフラが整備されている自治体にコミュニティバスは不要ですが、人が多いのに不便だった武蔵野市には必要。地方自治体は、そのスケール感ゆえ「かゆいところに手がとどく」のがいいところ。それが共生社会にも必要だと私は思います。
 共生社会とは、子ども、高齢者、さまざまなジェンダー、外国籍、障害を抱える人、健康でも職が得られない人……どんな立場の人も、その人らしく生きることができる社会。私は小ユニットである地方自治体が主体的に動くことで、共生社会に近づくことができると思っています。
 また武蔵野市は、他の自治体に比べて財源が豊かです。このような自治体が先駆的な事業を行うことは、「政策の実験の場」としても、また共生社会への取り組みを横に広げる意味でも、意義深いと思っています。

自治体から発信し、共生社会を広げていく

 実際、地方発の取り組みが、国全体に広がった例もあります。たとえば、よく聞く「老人医療費の無料化」。これは実は、1960年とずいぶん前に岩手県旧沢内村が初めて実施したものです(65歳以上。翌年には60歳以上に対象を拡大)。69年には東京都が70歳以上の医療費無料化を実施し、73年に国の制度として70歳以上の老人医療費無料化制度が実現しました。
 また、いまとなっては当たり前の「情報公開制度」ですが、実は条例を日本で初めて制定したのは山形県金山町という小さな町でした。82年のことです。その後、少しずつ各自治体に広がっていき、2001年に情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)として施行されました。
 18年度の税制改正で、全国で導入が決まった森林環境税も、もとは高知県から始まったもの。それが徐々に広がり、地球温暖化防止や森林整備を目的とした財源確保のために国が採択するに至りました。

 かゆいところに手が届くスケールであること。住民の声に耳を傾け、自治体レベルでできることはやってみること。とても基本的なことですが、共生社会の第一歩です。
 その際、課題になるのは財源ですが、これは「お金がある自治体が、先陣を切ってやってみる」ことが一番。国は、実験レベルの活動にはお金を出しづらいですし、余裕のない自治体も多くあります。まずは「ノブレス・オブリージュ」の精神で「できるところからまずやる」。そうすることで共生社会が形になっていくのではないでしょうか。

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成蹊大学では「共生社会」をテーマにした「地域共生社会研究所」を設置しました。

 

地域共生社会研究所

https://www.seikei.ac.jp/university/
research/project/labo02.html

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