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「人と会話のできる人工物」をテーマに研究してきた成蹊大学理工学部の中野有紀子教授。6年ほど前から「高齢者への語りかけロボット」を開発・研究している。
 きっかけは、病院関係者からの依頼だった。認知症の人が、家族や看護師にいろいろと話しかけては忘れ、介護者の負担になることもあるという。もちろん患者さん本人に悪気はないが、話しかけられた看護師は業務が滞ることもある。認知症の人の話し相手としてのロボットを作ってもらえないか、と相談されたのだ。

人とコンピュータの自然なコミュニケーションを目指して、人工知能などの研究に取り組んでいる

 当時実装したのはロボットではなく、パソコンの画面にキャラクターが映って会話する「会話エージェント」という仕組み。キャラクターが、適度に間合いを取ってうなずきながら、「今日は朝ごはんを食べましたか?」「何を食べましたか?」「体の調子はどうですか?」のようにどんどん質問を投げかける。
「高齢者の人の間合いに合わせて、話し終わったと判断したら次の質問をし、会話の調子を合わせます。最初は、そんな単純なものと話をしてくれるのかなと疑問に思ったのですが、みなさん楽しんで話をしてくださるのが意外でした」
 聞いてみると、認知症の方たちは、自身の記憶に障害があり、同じことを何度も聞いてしまうことをわかっているという。
「人と話したいのに、迷惑をかけるから話せない。でもこういう人工物であれば、いくら同じことを話しても嫌な顔をせずに聞いてくれるし、話したいだけ話せるからいい、と言っていただけました」

「人と会話できる人工物」を作るにあたって、特に教授が注目したのが非言語コミュニケーションだ。
「人間にとっていちばん自然なコミュニケーションは対面コミュニケーションです。音声だけではなく表情や視線、さらにどこに何があるといった空間全体まで認識して、文脈を補足・補強しながら人間は会話を理解しています」
 例えば声の高低やジェスチャーなど、コミュニケーションの「非言語」の部分を解析するには「センシング」が必要になる。センサーを体の様々な箇所につけたり、顔の映像を取得したり。だが介護の現場では不適切と考え、せめてカメラと音声だけでどんなセンシングが可能か、どの技術を切り出すのが適切かを考えた。実用化にあたっては、何度もいったりきたりした。

モーションキャプチャやアイトラッカーを用いて、グループ会話のときの体の動き、視線の動きを計測する

 こうした経験から中野教授は、研究は研究室の中に閉じこもるのではなく、研究室の外、地域社会のフィールドに出る必要があると考える。実際に、成蹊大学のある武蔵野市との連携も始まっている。
「私立大学研究ブランディング事業というプロジェクトが動いています。これは学部を横断した取り組みで、地域共生社会の実現に向けて、大学での研究を地域社会に実装していく試みなんです」
 福祉分野、とりわけ親子支援、高齢者支援、障害者支援の三つをテーマに、理工学部、文学部、法学部がそれぞれの立場から専門的な検証を行っていく。
 例えば文学部(現代社会学科)では、地域社会のなかで高齢者の孤立をどう防ぐか、子どもの貧困をどうケアするかなど、地域社会でのフィールドスタディーを実践している。法学部ではもっと俯瞰した視点で、どういう政策が地域社会にフィットするのか、縦割り行政ではないワンストップの行政を実現する政策提案を担う。
「技術があり、フィールドスタディーがあり、政策的な考察がある。異分野の研究者が協力して実社会の問題に取り組むことは、学術的にも重要なことですが、まだあまり進んでいないのが現状です。全学部がひとつのキャンパスに集まる成蹊大学だからこそできるチャレンジでもある。さらに武蔵野市は地域共生・福祉に意識の高い地域ですから、協力してもらえるのはとてもありがたいと思っています」

グループ会話に加わったロボットは、アイコンタクトや発言量から、会話のリーダーを判断することもできるという

 もちろん大学にとってだけでなく、自治体にとってもメリットがなければならない。研究としてやっていることと、地域社会で必要とされていることをうまくマッチングさせる作業が必要だ。実際に市民が何を求めているのか、地域社会のニーズを探るところから始めているという。
 中野教授が目指しているのは、人に寄り添い、人と人をつなぐことができるロボットだ。武蔵野市は特に一人暮らしの人が多い地域。例えば一人暮らしの高齢者に使ってもらえれば、センシングした結果から「今日は元気がなさそうだ」といった情報を家族や介護スタッフに伝えることもできる。話をして社会的な孤立から解放されるという高齢者自身のメリットと、様子をセンシングして必要な人につなぐという両面で役に立てる。
「人工知能というと、人間の能力を超えて仕事を奪ってしまう恐るべき存在のように取り上げられることが多いですが、そうではない。ちょっと控えめに、人間のことをセンシングしながら横にいてくれて、困ったときに手を差し伸べてくれる、そういう人工知能も十分実現可能なんです」

高齢者を対象にした実証研究の様子。画面に映る会話エージェントが質問を投げかけ、うなずきながら話を聞いてくれる

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成蹊大学では「共生社会」をテーマにした学融合的研究プロジェクトを立ち上げ、文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」に選定されています。

成蹊大学研究ブランディング事業
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成蹊大学
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