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専門は地域経済学と不動産経済学。「空き家問題は今の日本経済の象徴といえます。その解決は地方創生という意味でも重要な意味を持っています」

 成蹊大学経済学部経済経営学科の井出多加子教授は、地元吉祥寺周辺の「空き家の再活用」をテーマにPBL(課題解決型授業)を行っている。地域のマーケットをマクロ経済から俯瞰的に見ることで、それぞれにフォーカスした不動産活用を探ってきた井出教授。吉祥寺はどのような街に見えているのだろう? 「高齢化していく居住者が非常に多い街です」
 現在、「空き家」や「空き室」を問題とする地域が増えている。景観や安全を損なうなどの観点で「空き家」問題がフォーカスされがちだが、都心部で課題になるのは「空き室」のほう。実は吉祥寺を含む武蔵野市では「住みたい人は多くてもなかなか手が届かない」という理由で「空き室」が多い。
「学生が生活するには賃貸料が高すぎます。近くに住むためにアルバイトを掛け持ちしたり、もしくは遠いエリアから時間をかけて通ったり。実は、安心して勉学できる環境とは言いづらいのです」(井出教授)
 空き室問題と学生の環境整備。両者を解消するひとつの手段として、井出教授はUR団地の空き室を活用した「シェアハウス」に着目、武蔵野市にもその旨の提案を行っている。しかし、若者のニーズを把握せずに地域の事情を押しつけてもうまくいくはずがない。
「どのようなかたちで空き室を解消し、シェアを行っていけばよいのか。学生たちの率直な意見を聞きたいと思い、PBL(課題解決型授業)を活用することにしました」(井出教授)

 現在、38人の学生がこのテーマに取り組んでいる。宮地桜子さんと野添友哉さんは経済学部経済経営学科3年生。ともに就職活動のただ中にある。
「自分が就活の時期なので、いろいろなことを先輩方に聞ける場として、『就活ハウス』のようなシェアハウスはどうだろうと考えました」(宮地さん)
 OB、OGが地元に残って学生たちとシェアハウスで暮らし、後輩を見守るというアイデア。一方の野添さんは、学生以外の若い世代も地域に呼び込めるような方法を模索する。
「マンションの空き室を活用した子育て支援サービスなど、子育て世代にメリットのある使い方も地域振興の実現につながるのではないかと考えています」(野添さん)

成蹊大学経済学部経済経営学科3年の野添友哉さん(左)と宮地桜子さん。吉祥寺に空き室問題が存在すること、それがどんどん加速している事実に驚いたと話す

NPO法人「市民まちづくり会議・むさしの」の理事長として、自らも住まう武蔵野市のあるべき未来像を模索している

 URの空き室対策においては、国も割引制度や大学への補助金などを通じ、若年層の取り込みに躍起になっている。しかし、政策主導にも限界はある。国内外の土地・不動産活用事情に詳しいニッセイ基礎研究所社会研究部 土地・住宅政策室長の篠原二三夫さんは、井出教授からの依頼で、公的空間の活用をテーマにした授業を受け持った。
「ヨーロッパの都市は、建造物や広場などの公的空間をあるがままに維持しながら、最大活用して人を集める術に長けています。イタリアのある都市では、市が空き家を収容し、コンペで選出した起業家に斡旋するシステムがあり、向こう3年間は手厚いサポートを行います」(篠原さん)
 起業成功率は7割以上、そのうちの数件はトップ企業に成長したという。かたや吉祥寺では高い賃料に見合う売り上げを上げられず撤退する店舗が多い。結果、大手チェーン店が増え、本来の魅力であった多様性も薄まりつつある。井出教授は、吉祥寺の一角に古くから残る飲食店街「ハーモニカ横丁」を挙げて言う。
「再開発の際、ハーモニカ横丁を駅前に残したように、吉祥寺の特異性を生かしながら、若い人たちが起業しやすい街にしていかないといけないと思います」(井出教授)

 もちろん、「空き室対策」といっても、必要なのは「貸す側(地域)」と「借りる側(若年層)」双方が満足するかどうか。そして結果として、地域が活性化するかどうか、だ。いまも「これだ」という策が見つかったわけではないが、授業を受けた2人は、空き室を通じて地域をこう見るようになった。
「地域に定着していると成果も見えやすいはず。私はこの地域でずっと暮らしながら、今回の気づきを地域に還元していきたいと考えています」(宮地さん)
「長いスパンで取り組む必要があると思うので、卒業したら日本のさまざまな地域で都市計画に携わりながら、自分なりに持続可能なことに取り組んでいけたらと考えています」(野添さん)
 
 吉祥寺にも存在する空き家・空き室問題。それは全国共通の課題であり、老若男女すべての国民がコミットすべきテーマでもある。
「学生たちには、この授業をきっかけに、『使われていない資源をいかに活用するか』を自分ゴトとしてとらえ、これからもそれぞれに考えていってほしいと願っています」(井出教授)

井出多加子教授のゼミの学生は、調査や企画立案などを通して、地域活性化への貢献をめざしている。写真は地元の商業施設と共同で企画したクリスマスイベントの様子

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