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 高齢化率世界一(65歳以上の高齢者が約27%※1)の日本は、高齢社会のあり方を探る実験場でもある。なかでも、要介護状態の高齢者が増え、支える費用も右肩上がりの日本では「介護予防」が大きなテーマ。多くの自治体がさまざまな手を打っている。
 週1回、家族以外の他者との交流がある高齢者は要介護状態になりにくいというエビデンスがある※2。この知見を参考に、市民の自主性を生かした取り組みを行ったのが東京・武蔵野市。自治体のみならず、市民のボランティア、そして大学と、三位一体の活動が行われている。

「地域における関わり合いのハードルを下げながら、関わり合いの量を増やすことが必要では」

「2年前、高齢者のボランティアが多い武蔵野市から声がかかり、高齢者が高齢者を支える仕組みづくりに関わりました」と言うのは、高齢化する社会において高齢者の社会参加、地域参加を通して、互いを支える社会はどうあるべきかを研究している、成蹊大学文学部現代社会学科の渡邉大輔准教授。これまで、横浜市で調査を行い、地域における自主運営型の健康活動が介護予防につながる可能性を示し※3、武蔵野市とは介護予防の施策を検討してきた。生まれた施策のひとつが「いきいきサロン」事業だ。
 高齢者が通いの場(サロン)を作り、足を運んでもらうことで、介護予防を進めようとする取り組みだ。自治体は、一定の条件を満たすサロンを運営する団体等に補助・支援を行うのみ。いわゆる「市民が市民を支える」活動で、自走が難しそうにも思えるが、2016年7月のスタートから1年を経たずして17カ所にまで拡大した。

 場所の確保から人集め、メニューづくりまで、すべての主体は地域のボランティアが運営を行う。例えば、毎週水曜日午後1時30分から3時30分まで、絵手紙、折り紙、布ぞうり作製、「ちょこっと相談」等を行っているマルセサロンの場合、社会福祉士の蓬田恭子(マルセサロン書記)さんが、年末の助け合い運動で知り合った中村久美子さん(同代表)と青木佳子さん(同副代表)とともに立ち上げた。
 仕事をリタイアした後、人材バンクにも登録し在宅ケア論などを教えていた中村さんと、3年前まで自宅でサロンをやっていた青木佳子さんは、「最初、週1回のボランティアは厳しいかと思いましたが、1年間はやってみようと思って始めました」と話す。9人の登録者からスタートし、現在は18人。ほかにも足を運んでほしい人はいるが、現在のスペースではすでに「満室状態」だという。

代表の中村久美子さん(左)、書記の蓬田恭子さん(中)、副代表の青木佳子さん(右)

マルセサロン。場所の確保に最も苦労したものの、語学学校を経営していたメキシコ人のマルセさんから貸してもらった

 しかしなぜ、市民を主体にしたのか。「いきいきサロン」事業を開始した武蔵野市健康福祉部高齢者支援課の山田剛課長は、「介護保険制度だけでは高齢者の生活を支えるのは不可能だと思った」と言う。
 武蔵野市では現在、65歳以上の市民が22.1%を占め、75歳以上も11.5%となっている。要支援・要介護認定を受けたおよそ9割が75歳以上というデータもあり、今後は今以上に生活に支援が必要な人が増加することが予想される※4。高齢化が進むなかで、社会保障費の上昇によって自治体の負担も増えるであろうことは早くから想像できた。そのため武蔵野市は介護保険制度の施行直後から、市民主体の取り組みに力を入れ、食事提供などを通じて高齢者の生活を支援する「テンミリオンハウス」、商店主などがドライバーとなって高齢者を移送する「レモンキャブ」事業など、独自の策を行ってきた。
 
 いきいきサロン事業は始まったばかりだが、市民が主体の、高齢者が孤立しない都市型ネットワークとしても大きな意味がある。武蔵野市健康福祉部高齢者支援課生活支援コーディネーターの岡野りえさんは、「手探りで始めましたが、いきいきサロンが、地域の人がつながる窓口になれば」と、人と人がつながるきっかけになることを目指している。大人は、趣味や価値観など共通の関心がなければつながれない。興味をひくきっかけを、地域に網の目のように張りめぐらすことができるかどうかが、高齢者の孤立を防ぐポイントなのだ。

武蔵野市健康福祉部高齢者支援課生活支援コーディネーターの岡野りえさん(左)、武蔵野市健康福祉部高齢者支援課の山田剛課長(右)

 もちろん、個々の場にも工夫が必要。マルセサロンの中村さんは、参加者には活動メニューを提供するだけでなく、その特技を生かしたお願いをすることもある。マルセサロンは障害がある人のいきいきサロンへの参加を支援する共生社会プログラムも活用しており、障害がある人にも、「お茶を出したり、ペットボトルを開けたりと、自分の仕事をこなしてもらうようにしている」と言う。また自治体としては、これらの場づくりに携わる人材を確保したい考えだ。
「現在、人材の確保が喫緊の課題であり、今年度は地域包括ケア推進人材育成センター(仮称)を設立して、人材の発掘や養成などを行っていく予定です。武蔵野市は51町目ありますが、各町目に1カ所はいきいきサロンをつくりたいと考えています」(山田課長)
 
 成蹊大学はこれらの取り組みを常に観察し、施策にフィードバックする役割を担っている。山田課長が「市の取り組みを長期的に研究し、客観的に評価をするためのエビデンスの取り方を考案してほしい」と期待を寄せる通り、伴走者でありながらも客観的な視点を提示できるポジションが強みだ。
「老後の暮らしと同じように、支え合いの仕組みづくりは長期の活動になる。だから長期間関わることができる仕組みをつくることが必要です。今後もいろいろなかたちでエビデンスを提供しながら、経験やノウハウを蓄積し、ゆくゆくは他の地域にも提供できるものにできたらと思います」(渡邉准教授)

マルセサロンには、高齢者にまざって障害がある人が参加することも。交流を通して参加者が笑顔になることがうれしい、と運営メンバーは言う

※1:総務省「人口推計」(平成28年10月1日確定値)から

※2:斉藤雅茂, 近藤克則, 尾島俊之: 健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討 : 10 年間のAGES コホートより. 日本公衆衛生雑誌 62 (3): 95-105, 2015

※3:渡邉大輔: プロダクティブ・エイジングと健康増進のための国内調査の分析 :回答者の属性と健康への縦断的影響の分析. 国際長寿センター編, 地域のインフォーマルセクターによる高齢者の生活支援、認知症高齢者支援に関する国際比較報告書. 84-91, 2016

※4:武蔵野市 (2018) 武蔵野市高齢者福祉計画・第7期介護保険事業計画 答申, http://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/684/
toushinnsaisyuu.pdf

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