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 覚悟を決めて乗り込んだ土地で、待っていたのは強烈な洗礼だった。公衆浴場の脱衣所。首から下げっぱなしだったネームホルダーを見て、地元の男性に突然こう言われた。
「なんだおめぇ、地域おこし協力隊か? 俺はおめぇらは嫌いだ」
 野村明祥さんが成蹊大学を卒業し、地域おこし協力隊(伊達市では地域おこし支援員と呼ぶ)として福島県伊達市へ赴任した直後の昨春のことだ。伊達には学生の頃から、たびたびボランティアで訪れていた。
「びっくりしましたね。大学生の頃は行くだけで『また来てくれたの?』と野菜とかくれて、温かいなと思っていた。そういう側面だけじゃないんだと気づきました」

伊達市地域おこし支援員。学生時代は、大学のある武蔵野市と東北をつなぐ市民団体の代表も務めた。

 地域おこし協力隊は、人口減少や高齢化が著しい地方において、地域力の強化を目的に都市部から人材を受け入れる国の地方創生事業のひとつ。2009年に制度化されて以来、おもに20~30代を中心に2200人を超える隊員が全国各地で活動してきた。伊達市では野村さんが23人目の隊員だ。過去に赴任した隊員が多いほど、その活動への評価はまちまちになる。巨額の税金が投入されていることもあり、諸手を挙げて歓迎されるばかりではないのが現実だ。
 冒頭の一件以来、「協力隊の看板ではなく、野村という一人の人間として見てほしい」と思いながら活動してきたという野村さん。3年間の任期で、農業をテーマに新規事業やイベントを企画するのがおもな仕事だ。
 伊達市との出合いは成蹊大学2年生のときに受けた「武蔵野地域研究」の授業。武蔵野市を拠点に東北の復興ボランティアに携わる市民活動団体「武蔵野まごころ連」の人から話を聞いた。震災から2年近く経っても何も片づいていない現地の写真にショックを受け、自身も活動に参加するように。気づけば代表として団体を引っぱる立場になっていた。一般企業への就職活動もしたが、最終面接に向かう電車で思いとどまった。協力隊に進路を決めたのは、活動を通して課題が見えてきたから。
「まだ解決していない問題があるのに、このままにしたくない。震災があったからこうなった、というより、日本の地方全体が直面している問題。学生とは違う土俵で、チャレンジしたいと思いました」

大学時代にボランティアで東北に(左)。現在住む伊達市では、地域の人とも深い交流がある(上)。

 野村さんの問題意識とは何か。それは高齢化に起因する、地域の閉塞感だ。高齢者優遇の政策が採られ、現役の子育て世代に光が当たっていない。活動するなかで接した子どもたちは、外に出る発想がなく世界が閉じてしまっているようにも感じた。
 土地に魅力がないのではない。中の人が魅力に気づいていないだけ。初めて自分で精米して食べた新米のうまさに度肝を抜かれ、県内は18歳以下の医療費が無料と知って驚いた。野村さんにとっては新鮮でも、地元の人にとっては当たり前のこと。外からの風が入れば、変わっていくのではないか。
 そのためにはまず伊達のことを知ってもらい、足を運んでもらう必要がある。 
 元来、人見知りしない性格で、人と人とをつないでいくのは得意だ。武蔵野市の市民バザーで伊達の農作物を販売したり、大学のボランティア支援センターから学生を派遣してもらったり。成蹊大学のロゴと伊達市の特産品が同じ「桃」であることに着目し、大学にはコラボ商品も提案した。


武蔵野市民社会福祉協議会ボランティアセンター武蔵野主任。野村さんが学生の頃から、活動を見守ってきた。

 若い力が必要とされているのは何も東北だけではない。例えば成蹊大学のある武蔵野市は町内会・自治会組織を持たない全国的にもめずらしい自治体だ。困ったときに助け合えるような住民同士のつながりをつくる必要があるが、活動している人が高齢化し、後継者がいない問題も生じている。
 野村さんが学生のときから活動を見守ってきた武蔵野市民社会福祉協議会の三藤和寛さんは、学生との協働にも期待を寄せる。
「地域や高齢化の問題というと、限界集落など大きなテーマに目が向きがちですが、武蔵野市内でも課題を抱えている地域はあるんです。学生は若さとエネルギーを地域に与えてくれる存在。もう少し身近な部分にも目を向けてもらい、学生と一緒に地域の活性化を仕掛けていくようなことができたらと思います」

 一方の野村さん。「学生」という“最強の肩書"がなくなり、一から関係づくりの種をまいてきた。この1年で、伊達市が大きく変わったとは言いがたい。ただ、協力隊を毛嫌いしていた冒頭の男性からは「お前はひと味違うな」と言ってもらえた。年齢や職歴にかかわらず、できることはある。
「僕は僕です、というのをしっかり見せて、信頼関係をつくっていくしかないんです」
 福島で2度目の春を迎えようとしている。

武蔵野市民社会福祉協議会にて。

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