大学生、ラジオ番組をつくる

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 東京・武蔵野市のコミュニティーラジオ、「むさしのFM」のアナウンス。
「このコーナーは、成蹊大学文学部2年生の制作でお送りします」
 この日、ラジオで流れたのは、現役大学生が制作したリポート番組だ。大学生4人を1チームとし、合計3チームが制作した番組が放送された。大学の授業でつくられた番組だという。

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「メディア・リテラシー演習」での授業風景。4人1チームで1つの作品を作る。

「私たちが伝えたいことはなんなのか?」

近藤千咲さん

ディレクターとしてラジオ番組の制作に携わった。

 学生主体でラジオ番組やテレビ番組をつくる成蹊大学の授業「メディア・リテラシー演習」。担当教員や協力団体である地域メディアのスタッフの指導は受けつつも、企画、構成、取材者へのアポ取り、編集、ナレーションまですべて学生が行う。全15回の授業で、座学はほぼなし。得られるのは、知識より「気づき」だ。
 ディレクターとして番組制作を指揮した近藤千咲さんは言う。
「何も知らないリスナーに、ゼロから情報を伝えるのは難しかった」

 そもそも、なぜ大学がこんな授業を行うのか? 授業は2005年、メディアコミュニケーション論を専門とする文学部の見城武秀教授が立ち上げた。インターネットが急速に普及し、情報が身の回りにあふれるなかで、不確かな情報も多く出回り始めたことに危機感があった。

見城武秀教授

番組制作を通じて、メディア・リテラシーを醸成する取組みをはじめた。

「発信される情報には、発信者の意図が込められています。受け手には見えない、情報の向こう側に何があるのか。発信する立場になれば、情報を複眼的に見ることができると考えました」(見城教授)
 さらに、情報過多な世の中ながら「情報には、自分から働きかけないと見えてこないものもある」とも考えていた。たとえば大学がある武蔵野市では日々、新しい店が開店し、そこに生活者の営みがあり、困りごとや喜びがあるが、ほとんどの学生は目の前でおこっているこれらの出来事を見過ごしてしまう。取材し、発信する立場に立つことで、情報の捉え方、地域の見方が変わるのでは、と考えた。

 一方、番組づくりをはじめた近藤さん。序盤から、壁に突き当たってしまった。
 近藤さんが制作したのは、武蔵野市とルーマニアの交流事業を伝える番組「つながろう ルーマニア!」。武蔵野市は2020年の東京五輪・パラリンピックでルーマニアのホストタウンになっており、両者の交流をテーマにした。まずは、交流事業を運営する武蔵野市役所を訪問。必要な情報は得られたが、迷いが出た。
「これでいいのかな、伝えたいこととずれていないかな、という不安が出てきたんです。私たちのなかで、番組のビジョンがしっかりしていなかったことに気づきました」
 もう一度コンセプトを見直し、調べてみたら、地域にはルーマニア・ブラショフ市との交流を促進する団体「武蔵野ブラショフ市民の会」があること、武蔵野市出身の指揮者がブラショフ市との交流のきっかけをつくったこともわかった。追加で取材した。

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ルーマニア・ブラショフ市との交流を促進する地域団体に取材。

インタビュー内容の順序の組換えは

久保田 浩友さん

近藤さんら学生の指導・相談にあたった。

 無事、すべての取材を終えた近藤さん。だが、また壁に突き当たった。
 取材時のインタビュー音声は計3時間以上に及んだ。それを正味6分ほどに収めなければならない。取材相手はみな親切に対応してくれただけに、どの話も盛り込みたかった。だが、指導してくれた「むさしのFM」の久保田浩友さんに相談したところ、「自分たちが何を感じて、何を伝えたいのかを第一に、思い切って編集したほうがいい」とアドバイスされた。ここでも、自分たちが何を伝えたいのか、と自問自答することになった。
 興味深い話でも長ければナレーションで端的にまとめる、企画意図と合わない部分はカットする。こうした作業を通して、近藤さんはどのように情報が生まれるのかを学んだ。
 この授業では、ときに学生同士の議論が起きることもあるという。たとえば、インタビュー内容の順序を組み替えることは許されるのか、など。「本人が発言したことなのだから問題ない」「いや、それはヤラセではないか」と、意見もさまざま。編集を誤ればリスナーに誤解を与えてしまう。その責任は重い。
 見城教授は言う。
「インタビュー内容、その言葉を発した状況、番組が伝えたいメッセージ……さまざまな要素を勘案しながら、どこまで許されるのかを学生自身が考えることが意味のあるプロセスなのです」

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むさしのエフエム・スタジオでナレーション録り。

 インターネットの普及で、知りたい情報はいくらでも得られる時代になった。そのなかで、この体験型授業にはどんな価値があるのだろうか。生徒たちを指導した久保田さんは、現場に行き、一次情報に触れることで見方が変わることを強調する。
「実際に現場に行って、人に会わないと得られない情報がある。その情報の価値を、学生たちに知ってほしい」
 地域で活躍するたくさんの人にインタビューをし、どのように伝えるべきか、頭を悩ませた近藤さん。番組を通じて「発信者」を味わうことで、情報やメディアに関する考え方が変わっただけでなく、街並みがこう見えるようになった。
「先日、街を歩いていたら、年配の方が街をパトロールしている姿が目に入りました。以前も見たことはありましたし、当たり前の光景だと思っていたけれど、よく考えたらいろんな方が地域に尽力してくださっているのですね」
 これまでと同じ風景。でも知ろうとすれば、改めて見えるものもあるのだ。

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成蹊大学 
http://www.seikei.ac.jp/university/

むさしのFM/成蹊大学メディアリテラシーページ
http://www.musashino-fm.co.jp/photo-libraly-782/seikei-media/

【社会を知る、共に生きる。成蹊大学×吉祥寺】
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提供:成蹊大学