dot.大学通信 特別版 地域と歩む 国立大学編 知財、地財としての国公立大学の未来は?

地元国立大学が輩出する優れた人材が
各地の地方行政を支える大きな力に

 全国の国立大学はそれぞれの地域とどのように関わり、共に地域の活性化、発展を目指していくべきなのだろうか。地方行政と共に取り組んだ経験や、今後の国立大学像について、自ら神奈川県知事として地元国立大学との連携を確立し、現在は参議院議員、文教科学委員会に所属する松沢成文氏にうかがった。

 地方行政機関とその地域の国立大学。行政と教育という異なった役割を果たしながらも、ともに同じ地域を支える公的な機関として、その方向性は一致するところも多いのではないだろうか。

「私の2代前の知事である長洲一二さんの時代から、神奈川県では県政と地元の横浜国立大学の間には太い人脈がありました。長洲さんがその横浜国立大学の教授出身であったことから、講義を受けていた学生が卒業後に県職員を目指すことも多く、大学と県の間には友好的な関係が築かれたようです。こうした人材が官僚主義だった県庁を政策重視に変えていきました。これが神奈川県庁の新しいウエーブを生み出しました」(松沢氏)

 松沢氏が県知事に就任した時期には、主要なポストにも就いていたという。 

「政策重視の意向を持つその当時の地元国立大学出身者が、部長や局長クラスになっており、副知事を務めるなど、県政を支える大きな存在として力を発揮してくれました」(松沢氏)

 地元出身者がその地域の国立大学で学び、その力を同じ地域の地方行政に生かし、手腕を発揮できる体制が築かれていたとも言えるだろう。

県と大学が協働で地域事業
大学発・政策提案制度を創設

 県知事は首長としてその地域の国立大学をどのように捉え、その存在価値を認識しているのだろうか。

「かつて神奈川県には、国立大学と市立大学がありましたが、県立大学は存在しませんでした。新たに総合大学を創ろうという考えもありませんでした。県内に既に国立大学が存在し、医学部を持つ市立大学もある中で、他に任せられるものは任せようという判断です。大きなコストをかけて同じような大学を県が持つ必要はありません。それよりも互いの協力関係やこれを生かしたネットワークを築くことが大切なのです。そこで神奈川県は、少子高齢化時代を見据えて、県立保健福祉大学を創ったのです」(松沢氏)

 国立大学とその地域の県は、ともに広く開かれた機関として同じエリアに存在しながらも、互いに協調して行動を起こすことは簡単ではなかったという。

「小中学校は市町村、県立高校は県の管轄ですが、大学は文科省の所管です。ですから、大学と地域の連係はほとんどありませんでした。県内にある国公私立大学の学長や理事長と県知事との意見交換会が年にわずか1回あるだけでした。それも、県の教育関係の予算を説明し、要望をいただく程度で、連携にはほど遠い関係でした。もったいないと思いました。大学は知の宝庫です。これを県政に生かさない方法はありません」(松沢氏)

 神奈川県独自の先進力と協働力を「神奈川力」として生かしていくために、同氏は県内の大学に働きかけた。

「連携を強めるため2009年に始めたのが『大学発・政策提案制度』です。これは、国立大学を含む県内の大学から県政に関わる政策提案を募集して、公開コンペ方式で審査し、選ばれた提案を大学と県の協働事業として実施する制度です」(松沢氏)

 同制度は大学と県をつなぐ制度として既に定着している。2014年度には県内の10大学から13件の応募があり、県内の里地里山の機能が生されているか、保全効果を科学的に検証しようという国立大学からの提案など、3件が採択された。地域のために大学と県が協働で果たせることを探ることで、両者の連携が強まり、それまで接点の少なかった大学と県がこの制度を通じて結びつく結果をもたらしている。

「国立大学の学生の中には、その地域で生まれ、育ち、学んでいる地域とのつながりが深い人がたくさんいます。こうした学生には、自分の住む地域をよくしたい、発展させたい、そのために自分が学んだことを生かしたいという思いがあります。若者の熱い思いを地域に生かす仕組みが必要なのです」(松沢氏)

地域連携、国際化にも対応し
オンリーワンの独自性を追求

 現在、参議院議員として文教科学委員会に所属する同氏は、今後の国立大学に向けて自らの経験をもとに次の通り提言する。

「少子化を迎え、大学の構造改革を推進することも大切ですが、地域に根ざした大学として、その地域との連携を深めることが大切です。地域社会との接点が多く、その地域に開かれた大学が求められています。一方で、この分野ではオンリーワンという独自性を強めることも大切です。隣や周囲の県の国立大学と同じことを目指していては、学生はやはり都市部に集中します。『ここでしか学べない』『これを学ぶために、この地方の大学に行く』と思わせるほどの特徴を推し出すことで、全国から学生を集められます。さらには、国内や大都市圏だけを意識するのではなく、海外にも目を向けて国際的な競争力を持つ国立大学を目指すこともひとつの方法ではないでしょうか」(松沢氏)

 それぞれの地域で大きな役割を果たしている国立大学には、地域社会の発展を担っていくとともに、広く国内外も視野にした大きな期待が寄せられている。

松沢成文(まつざわ・しげふみ)氏

参議院議員、文教科学委員会所属。1958年神奈川県川崎市生まれ。1982年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、(公財)松下政経塾に第3期生として入塾。1987年同塾卒業、神奈川県議会議員に当選。1991年2期目当選。1993年衆議院総選挙に立候補し当選。1996年2期目当選。2000年3期目当選。2003年神奈川県知事選挙に当選。2007年再選。2013年参議院選挙に立候補し当選。明治大学兼任講師、(一社)首都圏政策研究所代表理事、(一社)スモークフリージャパン代表理事などを務める。