その私が性懲りもなく、旅愁をエッセイにしたためてみようという気になった。文章を紡ぐのは苦しいものの、過ぎ去りし日々と旧交をあたためるのは愉しくもあった。それで珍しく本に仕上げるまで、頑張り通すことができた。

 そうして世に出たのが、『派遣添乗員ヘトヘト日記』である。無名のオールドルーキーが著した本としては、ラッキーなことにそこそこ売れた。

 同書が出版された頃、新型コロナウイルスが猛威をふるっていた。そのため団体ツアーは、きれいさっぱり消滅。添乗員の仕事は、パッタリなくなってしまった。

 あり余る時間持ちとなった私は、続篇を着手することにした。そうして喜んで巣ごもり生活に入り、『旅行業界グラグラ日誌』を書き上げた。

「ザ・ナマケモノ」としては上出来も上出来の、精力的な巣ごもりの日々であった。

 コロナ禍といえば、旅行業界は天国から地獄へ急転、まさかの悲惨な状況へと落ち込んでしまった。それ以前は訪日外国人旅行者(インバウンド)が右肩上がりに増え続けて、業界は浮かれ気分に満ち満ちていた。

 しかも令和2年には東京オリンピックが開催され、世界中からツーリストたちが、わが国を訪れるはずであった。日本は観光大国としてのステップを、着実にのぼってゆく予定だったのである。

 それがすべて御破算で願いましてはと、なってしまったのだ。本当になぜこのタイミング、よりによってというのが、観光に携わっている人々の怨み節であった。

 作品のタイトルのごとく、パンデミックによって旅行業界は、グラグラに揺さぶられてしまった。閑静な住宅地は憧れの対象となるが、ひっそりとした観光地では洒落にもならない。ところが洒落にもならないような悪夢が、現実のものとなってしまったのである。

 歌謡浪曲で一世を風靡した三波春夫は、「お客様は神様です」とファンを持ち上げた。“沈黙の観光地”を経験した人たちにとって、その言葉は痛いほど胸にしみる。

 作品ではそのようなコロナに翻弄された観光地の状況を始めとして、トラブルの多いトラベル業界を、“添乗員は見た”という切り口から描いている。ぜひご一読あれ。