『学校制服とは何か その歴史と思想』
朝日新書より発売中

 2020年4月。

 不思議な光景を目にした。高校生が自宅で制服を着て勉強机に座っている。パソコンの画面を見てノートをとる。東京の郁文館高校、山梨の山梨英和高校の生徒たちだ。新型コロナウイルス感染を防ぐために学校は閉鎖され、家でオンライン授業を受けることになり、そこで制服着用が義務づけられた。郁文館高校は説明する。

「身だしなみの確認も授業中に行います。生徒はみな制服を着て授業を受けています。学校での授業と同じ状態で『家庭授業』を行う目的は、『メリハリを付ける』ことと、『程よい緊張感を保つ』ことです」(同校ウェブサイト4月20日)。

 山梨英和高校はこう伝える。

「生徒たちは各ご家庭で授業を受けますが、朝の礼拝から一日が始まり、1時間目から『時間割どおり』に授業を受けています。登校するときと同じく制服を着用して、身も心も引き締めて頑張ってオンライン授業に臨んでいます」(同校ウェブサイト5月1日)。

 家でオンライン授業を受けるにあたって、教室で先生の話を聞いているときと同じ心構えでいなさい、という指導である。「緊張感を保つ」、「身も心も引き締め」ることで、授業に身が入ると学校は考えたようだ。
 これらとは対照的な生徒指導をした学校があった。

 山梨県の山梨学院高校では5月に対面での授業を再開した際、衛生面に対応するために私服通学を認めたのである。制服は毎日着続けると汗や汚れがついたままになる。たいていの家庭では制服の予備はなく洗濯できないので、感染対策上良くない。こうした判断で夏季の制服着用を廃止した。同校の吉田正副校長は報道番組の取材でこう話している。

「特に女の子はおしゃれを気にしたりとか、楽しみにしている子もいるので、これも新しい生活の仕方だと思う」(「FNNプライムオンライン」6月8日)。

 岐阜県立加納高校も9月いっぱいまで私服通学を認めた。こちらは暑さ対策である。

 新刊『学校制服とは何か』では、(1)制服の推移(詰襟、セーラー服、ブレザー)、(2)制服モデルチェンジの背景(AKB風デザインの全国的な流行)、(3)制服自由化で個性尊重―――を中心に、制服の歴史と思想をまとめた。なかでも詰襟から青のブレザー、紺のスカートから明るいチェックスカートに変わるまで、教師、生徒、制服メーカーからさまざまな意見が出された様子は興味深かった。

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