9月号朝日新聞国際報道部記者 峯村健司 Minemura Kenji中国ルポができた最後の特派員 (2/2) |AERA dot. (アエラドット)

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9月号
朝日新聞国際報道部記者 峯村健司 Minemura Kenji
中国ルポができた最後の特派員

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 その足元では何が起きていたのか。31の省、自治区、直轄市のほとんどに足を運び自分の目で見てきた。中国軍の空母建造工場、最新鋭ステルス戦闘機の飛行実験場、サイバー攻撃の発信拠点、中朝国境での密輸現場、女性スパイによる「ハニー・トラップ」の実態……。事前に綿密な下調べをして監視の目をかいくぐり、党と軍の核心に迫ろうとした。

 ところが、私が北京を離れた直後から情勢が緊迫する。2015年以降、8人の日本人がスパイ罪で起訴された。中国ではスパイ罪の最高刑は死刑だ。中国で働いたり、旅行したりするすべての外国人がその危険にさらされる。外国特派員も例外ではない。当局から一度狙われたら、どこにいても居場所を把握されてしまう。朝日新聞中国総局の同僚たちも、ロケットの打ち上げ現場や国有企業の工場などを取材しようとしただけで拘束された。

 巨大経済圏構想「一帯一路」で、国外にまでデジタル監視システムや中国式のインフラを輸出していけばチャイナ・スタンダードが広まり、世界の報道の自由が脅かされかねない。

 取材成果については新聞紙上で公表してきたが、その過程について明らかにすることはほぼなかった。誇れるような成功談ばかりではなかったし、そもそも取材手法は表にできない部分が少なくなく自分だけの記憶にとどめておくつもりだった。

 しかし、振り返ってみれば、私が滞在した2007年からの約6年間は、まだ中国各地を縦横無尽に駆け巡ってルポができた最後の時代だったのかもしれない。「記者は現代史の最初の目撃者」と言われるならば、その軌跡を後世にしっかりと記録として残す責務があるのではないか。こう自問しながら、約40冊の取材ノートと当時の写真を取り出し、ときに胸躍り、ときに思い出したくない記憶を呼び覚まし、筆を執ることにした。

 これまでほとんどの人が立ち入ったことがない、いやこれからは二度と入ることができないかもしれない数々の現場に、読者のみなさんを案内したいと思う。


(更新 2019/9/ 2 )


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