4月号作家・KDDI総合研究所リサーチフェロー 小林雅一 Kobayashi Masakazu病気を治すため「遺伝子を手術する時代」が間近に (2/2) |AERA dot. (アエラドット)

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作家・KDDI総合研究所リサーチフェロー 小林雅一 Kobayashi Masakazu
病気を治すため「遺伝子を手術する時代」が間近に

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 こうした「医療」と並んで大きな期待を集めるのが、ゲノム編集による農作物や家畜の品種改良です。既に世界中の大学や企業の研究所では、ゲノム編集によって「肉量を大幅に増やした魚」「インフルエンザにかからない豚」あるいは「栄養価の高い野菜」などが続々と開発されています。

 ただし、ここから実用化へと向かうには、(品種改良を行う)科学者やバイオ企業らが、私達消費者と緊密なコミュニケーションを図りながら研究開発を進める必要があります。

 逆に、それを怠ったばかりに、苦い失敗を味わったケースが過去にあります。それは1990年代に登場した「GMO(遺伝子組み換え食品)」です。

 GMOとは、1970年代に開発された「遺伝子組み換え」と呼ばれる比較的古い技術によって、品種改良された農作物や家畜、魚などのことです。これらは「害虫や病原菌への抵抗力」など数々の長所を備えていましたが、消費者団体などの激しい反対運動にあい、一般家庭の食卓に普及しませんでした。

 その理由の一つは、遺伝子組み換え技術の操作精度にあります。それは「一万回に一度の成功率」と言われるほど精度の低い技術であったため、これによって品種改良された農作物や家畜の「食」としての安全性が疑問視されたのです。

 もちろん実際には、科学者らによる実験や成分検査などで、GMOの安全性は保証されています。しかし1990年代、GMOの開発に着手した世界的なバイオ企業らが真摯な情報開示を怠り、半ば秘密裡に研究開発を進めている印象を与えてしまいました。これがNGO(非政府組織)や一般消費者の不安を煽り、GMO普及の足かせとなったのです。

 これに対しゲノム編集では、遺伝子の操作精度が桁違いに改善されました。また「消費者の健康に良い農作物」など、より高度な品種改良も可能になりました。その一方で、(少なくとも現時点では)ときに「オフターゲット効果」と呼ばれる誤作動の危険性も抱えていますが、その解決に向けた研究開発も加速しています。

 これらゲノム編集の長・短所を包み隠さず開示しながら研究開発を進めることが、科学者やメーカーらが私達消費者の信頼を勝ち得るための必須条件となるでしょう。

 また私達の方でも、誤った先入観や偏見を排して、ゲノム編集を正しく評価する姿勢が求められます。本書がその一助となれれば幸いです。


(更新 2018/4/ 2 )


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