3月号医師 日野原重明 Hinohara Shigeaki102歳、はじめての絵本で伝えたかったこと |AERA dot. (アエラドット)

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3月号
医師 日野原重明 Hinohara Shigeaki
102歳、はじめての絵本で伝えたかったこと

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だいすきなおばあちゃん

日野原重明著

978-4022511614

amazonamazon.co.jp

 このたび、私がはじめて書いた絵本「だいすきなおばあちゃん」が刊行されることになりました。
 きっかけは2年前です。私は毎年、新年を迎えるごとに新しいことをはじめる習慣を実行しているのですが、100歳のお正月に、今年は絵本を書こうと思いたちました。
 かねてから考えていた、「子どもと死」「自宅でできる看取り」というテーマを絵本にして、子どもたちはもちろん、幅広い世代の方にも語りかけたいと思ったのです。
 核家族化が進んでいる現代の日本社会ですが、私の子どものころは3世代が一緒に暮らすのは当たり前のことでした。私は今でも、子どもたちがおじいちゃんおばあちゃんと共に暮らすことの重要性を感じています。父親や母親は、仕事や、食事作り、そのほか生活上のいろいろなことで毎日忙しく、子どもとじっくり向き合う時間をとることは現実にはなかなか難しいものです。もし、家庭におばあちゃんが同居しておれば、おばあちゃんから箸の持ちかたやお魚の食べかたなどの生活上必要な作法を教えてもらえるだけでなく、昔からの手遊びやお話などもしてもらえるでしょう。おばあちゃんは、子どもたちの話を「うんうん」と聞いてくれることでしょう。忙しい両親には行き届かない部分を、おばあちゃんは上手にカバーしてくれるはずです。
 私も子どものころ、毎晩夕食が済むと床に寝そべって、おじいちゃんやおばあちゃんから、いろいろな話をしてもらったのを懐かしく思い出します。たとえば5本の手の指は何のためにあるのか。指にはそれぞれ名前がついています。それをおばあちゃんは、孫たちに分かりやすく説明してくれます。それを聞いた孫たちは、あぁそうかと納得します。こうしておばあちゃんとお話ししながら教えてもらったことは、単なる知識ではなく、楽しい記憶として子どもの心にずっと残ってゆくでしょう。

 私が初めて人の死について考えたのは、10代のはじめのころでした。母の腎臓病が悪化し、尿毒症で夜中に痙攣をおこしました。急いで駆けつけてくれた家庭医の先生に、おそろしくて「お母さんは死ぬの?」と聞くことができず、「お母さんは治るの?」と聞きました。
 そのずっとあとに、一緒に住んでいたおばあちゃんが、「ゴクッ」とのどを鳴らして息を止めてしまったときのことも、鮮明に覚えています。お棺に入ったおばあちゃんには、笑顔のシワが残っていました。
 いま、年をとったおじいちゃんおばあちゃんで、自宅で養生して寝込んでいる方も多いと思います。人間には寿命があります。いつかはみな最期がきて死ぬものです。自宅で亡くなってゆくお年寄りを看取る、ということは、子どもが「死」を知り、「死」について考えるきっかけとなるかけがえのない体験です。
 私は医師として、患者さんに、家族と上手にお別れをしていただくために、することがあります。患者さんが末期になり、痛みが強いときにはモルヒネで痛みを和らげたり、鎮静剤で眠らせるような処方をするのですが、いよいよ死が近くなってくると、お薬を少しずつ切るようにするのです。この段階では痛みの感覚も低下するので、そうすることが可能なのです。そうすると、患者さんの意識が少しはっきりすることがあります。目がよく見え、耳もよく聞こえるようになります。そうした状態で患者さんと家族の間で最後にしみじみとした会話ができれば、お互いに「ありがとう」と言い合えれば、患者さんが亡くなられたあとも、家族はその悲しみをずっと引きずるようなこともなく、よいお別れができるようになるのではないでしょうか。
 この絵本の中でのおばあちゃんの亡くなりかたのように、家族の語りかける声が聞こえる、愛する人がそばにいて手を握っていてくれる、それは死にゆく人にとっても本当にうれしいことで、見送る家族にとってもはかりしれない慰めとなると思います。
 そして、おじいちゃんおばあちゃんが自宅で亡くなる最期のときまで、子どもたちを世話に参加させてください。そうすることで、子どもたちは自分も家族の一員であることを感じながら、人が死んでいくなりゆきをよく理解することができます。
 子どもたちには、おじいちゃんやおばあちゃんの最期のとき、これまでいろいろお世話になったことなどを思い出し、心からの感謝の言葉を伝えてほしいと思います。
 この絵本がおじいちゃんやおばあちゃんがしてくれたお話のように、子どもたちへのよきプレゼントになることを私は願っています。


(更新 2014/3/14 )


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