『メイド・イン京都』 藤岡陽子 著
朝日新聞出版より発売中

 藤岡陽子は「ものづくり」を大切にしている作家だ。たとえば『手のひらの音符』では、勤務先で服飾業界からの撤退を告げられたデザイナーが、自分の来し方を振り返り未来を見つめる話で、そのなかに京都で西陣織の再起を目指す人物が登場する。あるいは『おしょりん』は、明治三十八年に福井県ではじめて眼鏡のフレームの製造を始めた、実在する兄弟をモデルにした物語だ。

 新作の『メイド・イン京都』もまた、「ものづくり」がテーマのひとつとなっている。美大を卒業後、家具やインテリア用品を販売する会社で働いてきた十川美咲は現在三十二歳。会社の先輩の紹介で出会った銀行員の古池和範と交際して約一年ほど経ったところだが、父親の急逝で家業を継ぐことになった彼から突然プロポーズされる。そこではじめて知ったのが、彼の実家が京都で和食レストランを五店舗経営、他にもさまざまな事業を展開している資産家だということだ。美咲は求婚を受け入れて退職、京都の古池家の屋敷に移り住んだものの、義母や義姉の本心の見えない様子、急に上からの物言いをするようになった和範の態度に耐えられなくなっていく。そんな折、土産物屋で以前から興味のあった西陣織に刺激を受けた彼女は、思いつきでTシャツにミシンで刺繍をはじめる。また、滋賀で陶芸家として活動している大学時代の同級生、佳太と再会、バイヤーの瑠衣を紹介されたことから、人生が思いもよらない方向へと動きだす。

 美大で才能あふれる同級生たちに接して自信を失った美咲だが、それでもものを作る楽しさは身体がおぼえている。両親は下町で小さな手芸店を営んでおり、祖母は生前そこで洋裁教室を開いていた。その祖母の言葉、「人の手の痕跡がある洋服を身に着けなさい。そうしたら美咲の人生を豊かなものにしてくれるからね」を彼女は胸に刻んでいる。美咲自身も、「洋服の大量生産、大量消費、大量破棄という流れは好きではないですね」と瑠衣に語っている。実際、美しい光景を目にした時の感情を図案に盛り込みたいという美咲が生み出す刺繍のデザインは創意工夫に満ちていて、実物があるならぜひ見てみたいと思わせる。本来はセンスのある人間なのだ。

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